第6217回「EUREKA/ユリイカ その2、ストーリー、ネタバレ 青山真治監督 斉藤陽一郎」 | 新稀少堂日記

第6217回「EUREKA/ユリイカ その2、ストーリー、ネタバレ 青山真治監督 斉藤陽一郎」

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 第6217回は、「EUREKA/ユリイカ その2、ストーリー、ネタバレ 青山真治監督 斉藤陽一郎」(2001年)です。シネスコ、モノクロ映画です。


「プロローグ バスジャック事件」

 小学生の田村梢(宮崎あおいさん)が話し始めます・・・・。オープニング・タイトルのバックに、路線バスの車内が映し出されます。梢は、最後尾の座席に、兄の直樹(宮崎将さん)と一緒に座っていました。乗客はわずかでしたが、次第に通勤客のサラリーマンが乗り込んできます。


 場面は変わり、駐車場に路線バスが止まります。バスがジャックされたのです。犯人の青年は、拳銃を持っていました。外には、ふたりの死体が転がっています。運転手の沢井真(まこと、役所広司さん)も中ほどの座席に移されています。


 「外の空気を吸いたくないか?」、犯人は運転手の帽子をかぶり、沢井に密着しながら、車外に出ます。狙撃手が照準を合わせますが、沢井が邪魔で撃てません。刑事たちも接近します・・・・。しばらくすると、沢井が頽(くずお)れるように倒れたのです。警察は、ふいに訪れたチャンスを逃しませんでした。犯人を射殺します。


 バスジャック事件によって6人が死亡し、生き残った者も、心に深く傷を負います。そして、2年・・・・。


「第一部 四人の奇妙な同居生活」

 2年ぶりに、沢井は故郷に戻って来ます。両親は健在でしたが、兄夫婦が家族を取り仕切っていました。沢井は、居心地の悪さを感じます。仕事も、友人のシゲオ(光石研さん)が経営する工務店で日雇いの仕事をすることにします。


 一方、田村家では、家族崩壊寸前でした。事件直後には、梢がレイプされたとの噂がありました。それも一因となったのでしようか、母親は出ていきます。そして、父親は自動車で自殺同然で亡くなります。今では、二人だけで暮らしています。死亡保険金などを頼りに・・・・。直樹と梢は学校にも行っていません。


 沢井は、たわいない理由で家を出ます。最近、婦女連続殺人事件が起きていたのですが、工務店の女性とデートしたことを、兄にとがめだてられたのです。「事件が起きているときに、女連れで夜歩く奴があるか」、沢井が向かった先が、田村家でした。直樹と梢しかいません。


 事件以降(父親の死以降?)、ふたりは一言も口をききません。そんな田村家に、沢井が乗り込んだのです。「憶えてるかな?行くところがない、ここに住んでいいかな?」、意外にも、ふたりは了承します。キッチンは、ゴミだらけでした。リビングも・・・・。


 沢井は部屋を片付け、料理も作り始めます。3人の平穏な生活が始まったのですが・・・・。第4の人物が現れたのです。従兄の秋彦(斉藤陽一郎さん)でした。がさつで無神経な22歳の男として描かれています。ただ、沢井が日中働いている間は、秋彦が兄妹の面倒を見ていました。


 そんな時に、新たな通り魔事件が発生しました。被害者は、沢井が付き合っていた工務店の事務員でした。重要参考人として沢井が拘留されます。彼を取り調べたのは、バスジャック事件で犯人を射殺した松岡刑事(松重豊さん)でした。「あの時、お前の目を見て思ったよ、こいつは何かをしでかすと」


 拘留期限が切れたのでしょうか、それとも延長されなかったのでしようか。釈放された沢井は、田村家に戻ります。もちろん、秋彦から毒づかれます。「親戚じゃ、あんたが金目当てで、この家にもぐりこんだんじゃないか、と言われてるだ!」


 4人の関係がぎくしゃくします。沢井は決断します。中古バスを買ってきたのです。「旅行しよう、何かが変わる」、直樹、梢、秋彦の3人がバスを見つめます。「馬鹿げてるよ、やめよう」、秋彦は家に戻ろうとしましたが・・・・。梢が乗ったのです、引き寄せられるように直樹も乗り込みます。仕方なく、秋彦も・・・・。


 ただ、バスの中は、整備されておらず、乱雑を極めていました。シゲオに手伝ってもらって、ベッドなどを搬入し、居住スペースにします。外見はバス、内部はキャンピング・カーになりました。しかし、トイレもシャワーもキッチンもありません。


「第二部 バスでの放浪生活、喪失と再生」

 4人が向かったのは、バスジャック事件で惨殺が行われた駐車場でした。「直樹、梢、よく見ておけ。ここが俺たちの出発点だ。必ずやり直せる」 ところで、田村家にいた頃から、沢井は空咳(からぜき)を繰り返しています。映画では直接的には描かれていませんが、大きな伏線になっています。


 沢井は、オートキャンプ場を宿泊場所として転々とします。シャワーも、トイレも、炊飯にも事欠かなかったからです。その間、秋彦はポラロイドカメラで全員を写し続けます。ただ、理由は分かりませんが・・・・。梢は、写真が気に入ります。


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 阿蘇山にも行きます。コンビニでの買い物を済ませた後、秋彦と沢井が二人だけの時、秋彦があることを話します・・・・。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。217分の長尺映画も、あと30分程です。ここからは、モノクロとカラー映像が微妙に交錯します。


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 秋彦が語った内容は衝撃的でした。「コンビニで新聞を読んだ。連続殺人が俺たちの行く先々で起きているんだ。犯人は、あんたか、直樹以外にはいない!」、沢井は衝撃を受けます。そして、直樹が動きます、その前に立ちふさがったのが沢井でした・・・・。「人を殺して悪いのか?」、沢井が聞いた直樹のはじめての言葉でした。


 一晩話し合ったのでしょうか、夜は明けています。「生きろとは言わない。だが、死なんでくれ!待ってる・・・、必ず迎えに行く」、沢井は直樹に自首させます(このあたりはカラー映像です)。相変わらずバスは高速を移動します。


 そんな時に、光彦が何も考えずに言葉にしたのです。「直樹は一生、施設か精神病院かな?一線を越えたんだものな」、沢井は、いきなりバスを止めます。秋彦を抛(ほう)り出したのです。荷物も・・・・。そして、殴り倒します。「直樹が出てくれば、お前のような奴らに、更正を拒まれるだろう。だが、俺が必ず守る!」


 梢の脳裏に兄の言葉が届きます。「梢、海を見に行ってくれ。そして、海の映像を俺に送ってくれ」、沢井と梢はビーチに行きます。梢は遠浅の海に入っていきます。「お兄ちゃん、海よ、見える?」


 場面は変わり、眠っていた梢を起こします。目の前には、広大な山野が拡がっていました。カラー映像です。エンディングロールが流れます。


(蛇足) 劇中、何度も沢井は咳込んでいます。沢井の死が近いことを暗示しています。サブタイトルに、「喪失と再生」と書きましたが、必ずしも「再生」が容易だとは思えない重いテーマになっています。それを表現し尽くすために、217分の上映時間が必要だったということでしょうか。長い映画です。


(追記) 感想につきましては、"その1"に書いています。興味がありましたら、アクセスしてください。

http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11534252657.html  


(補足) 2枚目の写真は、"MovieWalker"から引用しました。