第6216回「EUREKA/ユリイカ その1、感想、217分の長尺、そしてクロマティックB&W」 | 新稀少堂日記

第6216回「EUREKA/ユリイカ その1、感想、217分の長尺、そしてクロマティックB&W」

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 第6216回は、「EUREKA/ユリイカ その1、感想、217分の長尺、そして、クロマティックB&W 青山真治監督 田村正毅撮影」(2001年)です。


 実に長い映画です。ストーリーをウィキペディアから引用します。

 『 九州で起きたバスジャック事件によって、心に深い傷を負った運転手の沢井、中学生の直樹と小学生の梢の兄妹は、人生の再生をかけた旅に出る。 』


 3時間半にわたる映画をみごと数十字に要約しています。ウィキペディア子の強い意思を感じさえします。大まかに構成を記しますと、


「プロローグ」(20分)・・・・ バスジャック事件が描かれています。

「第一部 四人の奇妙な同居生活」(2時間)・・・・ 2年後、沢井真(役所広司さん)、田村直樹(宮崎将さん)、田村梢(宮崎あおいさん)、さらに、兄妹の従兄である秋彦(斉藤陽一郎さん)が、両親不在の田村家で暮らすことになります・・・・。

「第二部 バスでの放浪生活」(1時間20分)・・・・ 4人は、沢井の強引な主導で、中古バスを改造し、旅に出ます。そして、北九州で発生していた連続女性殺害事件の真相が明かされます。


 直樹と梢は、バスジャック事件以降、一切口をききません。母親は家を出、父親は自殺しました。一方、2年間の放浪から故郷に帰ってきた沢村も、心に大きな傷を抱えています。そんな沢井が求めた救済が、あの兄と妹でした・・・・。


 シネスコサイズのモノクロ映画です。モノクロで撮影し、カラーフィルムにポジで焼き付けるという"クロマティックB&W"方式が取られています。ただ、ラスト30分程は、モノクロとカラー映像が微妙に交錯します。市川崑監督が創始した"銀残し"とはまた違った味わいのある映像です。


 この映画で重要な役割を演じるのは、沢井、直樹、梢の3人であることはも間違いありません。しかし、青山監督が最も演出にあたって留意したのが、従兄の秋彦(22歳という設定)の存在かもしれません。がさつで無神経な人物として描かれています。そして何よりも、「世間一般」の目を持った人物として・・・・。


 秋彦は、他人の感情を逆なですることに、自分自身気付いていません。ですが、彼こそ、世間そのものです。共通する心の傷を負う3人に、土足で踏み込んでいきます。しかし、そこには一切の悪意がありません。彼こそ、観客だからです・・・・。


 次回、ストーリーについて書く予定です。ただ、バスジャック事件とか、婦女連続殺人事件などが描かれていますが、映画は淡々とセピア色のモノクロ画面で進行します。3時間半、ほとんど起伏なく・・・・。


(蛇足) 宮崎あおいさんが演じた梢は、映画冒頭とラストのみ、わずかにしゃべっています。直樹に関しては、ラスト近く、わずかに心情を吐露しています・・・・。


 ところで、タイトルのユリイカは、「見つけた」という意味のギリシア語です。アルキメデスが風呂場で叫び、裸で飛び出したとの伝承で有名になりました。