第5938回「心中天網島 篠田正浩監督 その1、感想 岩下志麻の小春とおさん 名残の橋づくし」 | 新稀少堂日記

第5938回「心中天網島 篠田正浩監督 その1、感想 岩下志麻の小春とおさん 名残の橋づくし」

 第5938回は、「心中天網島 篠田正浩監督 その1、感想 岩下志麻の小春とおさん 名残の橋づくし」(1969年)です。


 実に実験的な映画です。冒頭では、人形浄瑠璃の楽屋・舞台裏が紹介されているだけでなく、本編中にも、多数の黒子が登場します。


 さらに、壁とか床には、浮世絵などを引き延ばしたものを使っています。ですが、さほどの違和感はありません。音楽も、浄瑠璃を意識した演出が加えられており、映画としては斬新ながらも経年劣化しない手法が駆使されています。なお、映画はモノクロ、スタンダードサイズで撮られています。


 篠田演出の最大の特徴は、妻のおさんと遊女の小春を岩下志麻さんに一人二役で演じさせたことです。ある意味、「心中天網島」に対する画期的な解釈とも言えます。お互いに義理ある二人が、遊女と妻女の違いがあっても、表裏一体をなす人物であったと・・・・(岩下さんは監督の奥さんですが、奥さんだから二役にしたということはないと思います)。


 そういう解釈に基づきますと、心中の当事者である紙屋治兵衛は、おのずと狂言回しということになります・・・・。それが最も、「心中天の網島」に対する正しい解釈かもしれません。


 原作となった近松門座右門の戯曲では、「下之巻 名残の橋づくし」が有名です。いわゆる小春治兵衛の道行を描いているのですが、ふたりは次々と八百八橋といわれた大坂の橋を渡っていきます・・・・。一部引用します。


 『 朝夕渡る この橋の 天神橋は その昔 菅丞相(菅原道真)と 申せし時 筑紫へ流され 給ひしに 君を慕ひて 大宰府へ たった一飛 梅田橋  跡追ひ松の 緑橋 別れを嘆き 悲しみて 後に焦がるる 桜橋 ・・・・ 南へ渡る 橋柱 数も限らぬ家々を いかに名付けて 八軒屋 誰と伏見の 下り船 着かぬ内にと 道急ぐ この世を捨て 行く身には 聞くも恐ろし 天満橋 』


 ロケだけでなく、セットでも橋が組まれていますが、それなりに趣のある橋に仕上がっています。ATG作品名ですので、低予算だったと思うのですが・・・・。


 ところで、篠田正浩監督作品といえば、「はなれ瞽女(ごぜ)おりん」(※)が強く印象に残っています。好みの問題になりますが、「心中天網島」より「はなれ瞽女おりん」が優れているのは、観念ではなく淡々と四季の自然を撮っていった宮川一夫さんの功績が大きかったのではないでしょうか。好きな一作です。


 次回、ストーリーについて書く予定です。


(追記) 「はなれ瞽女おりん」については、既にブログに取り上げています。興味がありましたら、アクセスしてください。

「感想」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11269294427.html

「ストーリー」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11269481922.html