電子納本制度化のための国会図書館法の改正に反対する | こんな本があるんです、いま

電子納本制度化のための国会図書館法の改正に反対する

去る3月19日、国会図書館の田中久徳電子情報部電子情報企画課長ら電子納本の責任者が流対協を訪れ、オンライン資料収集の制度化、いわゆる電子納本について国会図書館の方針を説明、今国会で制度化のための法改正を行うので、賛成してもらいたいとの申し出があったが、流対協としては改めて反対意見を述べた。

納本制度審議会は、3月6日に「中間答申 オンライン資料の制度的収集を行うに当たって補償すべき費用の内容について」を国会図書館館長に答申した。

それによると、まずオンライン出版物で収集の対象となるオンライン資料を次の四つに分類する
 A群資料 DRM等の付与されていない無償出版物
 B群資料 DRM等の付与されていない有償出版物
 C群資料 DRM等の付与されている有償出版物
 D群資料 DRM等の付与されている無償出版物

このうち、B、C群資料がわれわれ出版社の商品としてのオンライン出版物にあたる。

まず、A群資料については、「複製費用及び利用による経済的損失に対する補償は無償とする。納入に係る手続き費用としては、送付により納入した場合の記録媒体と郵送に要する最小限の実費を補償する」と結論した。

また「有償のオンライン資料及びDRM等の付与されている無償のオンライン資料(B、C、D群資料)、非ダウンロード型資料並びに専用端末型資料については、さらに審議を継続する」ということになったと言う。

その上で、「結論を得たA群資料から収集を急ぎたいので、オンライン資料の収集の制度化のための国会図書館法の改正案を今国会に上程するので、これについて了解を得たい。有償出版物については今後話し合いをしていく」との話であった。

流対協としては、その場で有償出版物などについて合意ができていないまま、オンライン資料の収集の制度化を図ることは納得できない。そうした見切り発車をして、法定納本だから納本してくれというのはおかしいと述べ、口頭で反対を表明、改めて幹事会で議論の上、文書で回答すると答えた。

今回の中間答申は、B、C群資料(有償出版物)については「複製費用及び利用による経済的損失に対する補償は無償とすることが妥当と考えられる」と納本制度審議会平成22(2010)年6月7日付け答申を繰り返している。これまでの考え方を変えたわけではない。その上で「ただし、当該資料については、パッケージ系電子出版物の補償との均衡、補償がないと十分な収集ができない可能性があることを勘案し、政策的補償やその他のインセンティブの付与を行うことを含め、さらに審議を継続する。」と述べている。

『新文化』2011年2月3日付で筆者が『電子納本と長尾構想の問題点』で電子納本に反対する理由を論じ、7月14日に書協、雑協、新聞協会が連名で、国会図書館に対し、オンライン資料収集についての要望書を出した。流対協は12月19日付けで電子納本に反対する「オンライン収集制度化についての意見」を提出した。こうした出版界の反対の動きを見て、一定の配慮をしないとまずいとの判断であろう。

パッケージ系電子出版物の補償は、「当該納入出版物1部当たりの生産に要する費用とする」となっていて、小売価格の4掛けから6掛けになっている(納本制度審議会平成11年7月19日答申)。生産に要する費用とは、利潤を除き「製造コストに販売等に要する経費を加えたもの」で、著作権等使用料も含む。オンライン電子出版物には、印刷製本の工程、作成部数の概念が存在しないし、利用料としての価格であるから「代償金の考え方を準用することは困難である」、納入のための複製はデジタル複製であり、「補償を要するほどの額にはならず」、タダと納品しろと答申はいう。タダということは、オンライン電子出版物の編集・制作費や、サーバーのシステム費から維持管理費などが含まれていないだけでなく、著作権使用料も含まれていないということになる。

中間答申は、「パッケージ系電子出版物の補償との均衡」を指摘し、タダでの納入ということに、出版社が反発しているので、収集が難しくなるという危惧から調整を図ろうとしている。しかしこれはそうした小手先の問題ではない。代償金の考え方そのものに問題があると言える。現在の代償金制度がだめなら、オンライン電子出版物用の代償金制度を創設すればいいのだ。

国会図書館や納本制度審議会の考え方は、紙も使わず印刷・製本していないし複製費用も微々たるものだから、タダ同然だろう。納入のための送料くらいは払ってやろう、利用については紙と同じだから経済的損失はなかろう、というものだ。コピー代すら払おうとしない、ただ乗りの発想である。

出版社がひとつの本を作るのにどれだけの手間暇をかけ、著者が原稿を完成させるのにどれだけのエネルギーを注いでいるのかについての想像力はここにはない。著者や出版社は図書館で反復利用されることによる経済的損失について、これまでは不満はあっても受忍していたに過ぎない。それは、出版物を文化的資産として国が保存することは必要であるということと、最終的な中央図書館として利用できるということを出版社側も了解して、これまで納本をしてきたわけである。

その間、国会図書館は、諸外国のように反復利用を考慮して高く購入したり、保存と利用のために複数納本させたり、あるいは全国に国立図書館なみの図書館を配置することもしてこなかったし、代償金の考え方そのものも変えようとはしなかった。

そして時代が変わった。デジタルネットワーク時代になって、紙の出版物であれ、電子出版物であれ、国会図書館内から公共図書館等に、さらには各家庭までオンラインにして利用しよう、そうすれば国民は喜ぶ、という長尾国会図書館長の構想がでてきた。そんなにやりたければ、国会図書館が紙であれ電子であれ、本を編集発行して、全国民にただで配信すればいいのだ。

ここまで書いていたら、「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(座長=中川正春防災相)が、出版者の権利について「出版物原版権」を創設するというニュースが入った。『読売新聞』によると「『出版物原版権』は、作家の著作権を100%保護したうえで、紙の本や電子書籍という形に加工した『原版』に対する権利を、追加的に出版社に与えるという枠組みをとる。具体的な中身は、原版を①複製する複製権②インターネット上に展開する送信可能化権③複製物の譲渡によって公衆に提供する譲渡権④貸与によって公衆に提供する貸与権──などからなる」。

流対協は、昨年8月22日付けで文化庁の「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議への要望」で、「出版物は、頒布の目的を持って出版者の発意と責任において、編集、校正、制作し、文書又は図画としての著作物を最初に版に固定し(いわゆる原版)、発行(発売)された物で、媒体を問われない。出版者とは頒布の目的を持って発意と責任において、文書又は図画としての著作物を最初に版(いわゆる原版)に固定し、発行(発売)した者で、その権利の種類は以下のものが付与されるべきである。権利の種類=許諾権/1複製権/2送信可能化権を含む公衆送信権/3譲渡権/4貸与権 保護の始まり=頒布の目的を持って文書又は図画としての著作物を最初に版に固定した時」と要望している。流対協の主張と勉強会の結論は、出版者の権利の概念と種類が基本的に一致している。流対協の主張は「原版権」というべきもので、レコード政策者の著作隣接権の考え方にヒントを得たものである(『グーグル日本上陸撃退記-出版社の権利と流対協』論創社刊、を参照)。流対協の上浦英俊前幹事は「最初に出版したという事実そのもの」を尊重し「原出版社権」という表現を用いている(『出版ニュース』2月中旬号)。

まだ詳細は明らかではないが、二つが考えられる。出版者の権利の種類から考えると伝達者の権利としての著作隣接権を事実上、出版者に付与する、二つ目は設定出版権を電子書籍にも拡大し、「出版物原版権」という新たな呼び名とする。ともあれ注目すべき動きである。

●高須次郎緑風出版/流対協会長)

『FAX新刊選』 2012年4月・218号より