国立国会図書館●オンライン収集制度化についての意見 | こんな本があるんです、いま

国立国会図書館●オンライン収集制度化についての意見

12月19日、下記の意見書を国会図書館に送信しました。

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オンライン収集制度化については、納本制度審議会答申(平成22年6月)そのものに反対であるので、改めて反対するとともに、答申に基づく法改正等を中止するよう求める。
 
答申ならびにオンライン収集制度化に反対する理

1 無料での納本は、「生産費用」を無視した暴論である

答申はオンライン資料の収集に当たって、無料での納本を義務づけている。現在の納本制度では、代償金が支払われるが、答申では「オンライン資料にはそもそも『印刷・製本』の工程、『作成部数』の概念が存在しない。また、『小売価格』に相当する額であるが、インターネット等において公衆に提示されている『価格』は当該資料の利用料としての『価格』であることを考慮すると、代償金の考え方を準用することは困難であると考える。また、オンライン資料の納入のための複製はデジタル複製であり、納入のための複製の費用も補償を要するほどの額にはならず、この点でも代償金の考え方を準用することは困難であると考える」とした。

納入のための送信費用等は払うが、代償金の主たる構成要素である「生産費用」はおしはかれないからタダで納入しろといっているのである。電子出版物を編集・制作するのがタダと考えるのは、単にその編集・制作工程を知らないからであろう。

一般の出版物は、出版者(社)の発意と決断、リスクに基づいて、編集者が原稿を依頼し、入稿した原稿を精読・整理し、推敲や書き直しを求めた上で、割り付けし、数回の校閲・校正を経て校了して、印刷・製本するものである。電子書籍は、この一般的な書籍の印刷・製本の工程に入る前の段階から分岐し、別の制作工程にはいるのである。原稿依頼から校了までに編集費や電子書籍化の制作費など多くの費用が投じられている。電子書籍製作用のソフトやシステムの導入・整備、そのための人員の配置、あるいは外注などの経費がかかるのは当然である。印刷製本費がかかっていないから、原稿があれば即タダで電子書籍ができると思っているような審議会答申は、不勉強としかいえまい。

2 オンライン出版物の代償金の制度の検討が必要である

答申は「インターネット等において公衆に提示されている『価格』は当該資料の利用料としての『価格』であることを考慮すると代償金の考え方を準用することは困難であると考える。」という。現在、出版社は定価の5掛けで新刊を国会図書館に納本している。代償金の考え方から国会図書館側は厳密にそうした掛け率を算出しているのであろうか。電子書籍についてもその定価の5掛けで代償金を払う程度の答申もできるはずだ。代償金の考え方を準用できないというのなら、オンライン出版物の代償金の制度を整備すればすむことであろう。

紙の書籍についても国によっては、反復利用を前提にする図書館は、定価以上の価格で購入している例もある。電子納本は、1冊の紙の本を昔なら紙型ごと、今ならデータ付きで納品するような内容となっている。そんなことをタダで納品する出版社があるとは思えない。データ付きの本を売るとすれば何百倍、何千倍と高くなる。

3「収集」が目的であれば、DRMの解除は不要である

答申によると、オンライン出版物の収集については「情報の発信主体による送信」(オンライン資料収集運用想定資料によると、サーバーへの送信と指定する記録媒体(DVD)での郵送がある)と「収集主体による自動収集」があり、前者を主として行うことになっている。「情報の発信主体による送信」による場合、「出版物の同一性を保持するためは、出版時のフォーマットで、「情報の発信主体から送信してもらうことが重要と考えられる」。この場合、「デジタル著作権管理(DRM:Digital Rights Management)がフォーマットに組み込まれていることが多い。それらは解除しない限り利用に支障を来すため、館が収集するためには、情報の発信主体が送信に当たってDRMを解除して納入するように依頼することが必要である」という。デジタル著作権管理が電子機器上のコンテンツ(映画や音楽、小説など)の無制限な利用を防ぐための技術である以上、DRMを解除して納入すれば、国会図書館による無制限な利用が技術的には可能となる。これはオンライン出版物の「利用」に重きを置いた文言であって、「収集」が第一の目的であれば、DRMの解除は不要であろう。他の製造業で言えば金型そのもの、開発したソフトそのもの無料で提供せよといわれているに等しい。タダで「ハイ、分かりました」と納品する馬鹿はいまい。利用を限定するの、セキュリティには万全を期するといわれても、長尾構想による利用の拡大や公安テロ情報等の漏洩問題をもちだすまでもなく、漏洩による損害補償の考慮を前提にしておらず、およそ信用できない。「収集主体による自動収集」にも、これでは同意できない。

4 現行制度でも不満が残っている利用による損失補償を要しないという結論に反対である

国会図書館の「利用による経済的損失についてであるが、有体物の図書館資料の利用形態である閲覧、複写、図書館間貸出においては経済的損失の補償は不要とされており、収集したオンライン資料の利用にあたって、第7章で想定する利用形態(紙の出版物と同様の利用形態)である限りにおいては、有体物の場合と同様に、補償を要しないと考えられる」としている。(4)は、館内提供で、館内閲覧、プリントアウトが想定されている。

答申は、館内閲覧、プリントアウトに限定して、利用による出版社の経済損失の有無を科学的に算出したわけではない。これまで、図書館における紙の出版物の利用や貸し出しが無料であることについては法律で許されてきたが、著作権者や出版社側から強い不満があり、貸与料などを支払うべきとの要求がある。こうした観点から、紙の出版物と同様の利用であるから、補償を要しないという結論に反対である。

5 図書館資料としての利用形態を超える利用が想定されている答申にもとづくオンライン資 料収集制度化に反対である

答申では「通常の図書館資料としての利用形態を超える利用は、図書館資料に係る著作権の権利制限を超える利用形態が考えられる。資料の全体の複写、オンライン形態での都道府県立図書館等での利用、インターネット配信、館と協力を行う非営利法人等の団体での利用等が想定されるところである。これらいずれの利用にあっても著作権法上の権利制限を超えるため、実施に当たっては契約に基づいて実施することになる。併せて、契約相手たる権利者が不明な場合(いわゆる孤児作品)の処理の仕組みも検討されるべきである」。これは長尾真館長のいわゆる「長尾構想」をそのものといえるもので、さまざまな利用の拡大が考えられている。出版社にデジタルネットワーク社会に応じた出版者の権利が与えられていない現状で、このような想定に基づくオンライン資料収集制度化に反対する。