大本営発表、コンピュータ監視法 再販もまた末期症状
福島第一原発事故がいつまでたっても終熄せず、放射能汚染がますます拡大していく様相だ。漠然とした不安感があるにもかかわらず、目に見えず臭いも味もしないので、ガタガタ騒いでも仕方あるまいと、悠然を装うこともできるのが、この問題の厄介なところだ。水や食べ物にいちいち注意を配ることが、神経質すぎるなどと片付けられてしまう。しかし、現実はそんな態度を許してはくれまい。いつまでたってもろくな避難も防護をしないわれわれに、放射能は確実に襲いかかっていて、気がついたらガンや白血病になっているということになるのだろう。
あのチェルブイリ事故の死者が公式には56人から4000人となっているのに、実はすでに100万人を超えていることを、当時、ゴルバチョフの科学顧問として被害調査を続けている科学者、アレクセイ・ヤブロコフが、つい最近明らかにしている。彼によれば福島事故がそれ以上の被害がでるのは明らかだと言う。地震に際し日本人らの“落ち着き”に喝采を送った海外の人々も、後世、われわれがなんと愚かな民、物言わぬ民であったかと評するのだろうか?
政府・マスコミの安心・安全の大本営発表に対する嫌気と危機感からネット情報と意見交換が爆発したのが、3.11以降の特徴だ。嘘を暴かれた政府は、捜査機関が裁判所の令状なしに、プロバイダーやネットワーク管理者に最大60日の保全命令・データ提出が可能になるコンピュータ監視法で、どさくさ紛れにろくな議論をしないまま、国会を通過させてしまった。流対協として抗議声明(下記参照)を出しておいた。
3.11以降に明らかになったことで重要なことは、テレビ・新聞が戦前と同じで、嘘つきで情報操作をしていることだろう。政府とマスコミの間で報道協定が結ばれているのではないかとすら疑われる。テレビ・新聞離れが確実に加速されそうだ。その点、雑誌や書籍は時代の要請に応えることができる確かな役割があることを、改めて社会に示すことができた。
出版界では、震災返品処理が動き始める。流対協会員社でも当然、倉庫在庫の損害が思った以上に出ていた。私の会社もそうだ。流対協は、震災返品処理の原則を5月に提起したが、この間の議論をふまえ、最終的見解を近日中に発表することにしている。取次店を含めず被災地の書店に限定し、取次店に応分の負担を求めるという原則だ。取次店には版元が5掛けで入帳するものを書店から5掛けで入帳することだけは止めてもらいたい。8分口銭以上を負担することが応分の負担ということになろう。書店さんもそのつもりで取次店負担を加味して返品していただきたい。
報道によると、フランスで電子書籍の定価販売法が成立した。ドイツも定価で売っているという。電子書籍について公取委の意を慮るばかりで、再販商品に加えようとの努力さえしないわが出版界に比べると、文化の国はやはり違うと思ってしまう。
挙げ句の果てに、再販制度の見直しのないことが確定したにもかかわらず、バーゲンブックフェアがネット販売や東京国際ブックフェアで引き続き行われている。理由がふるっている。公取委の是正6項目は生きているのだからやるのだそうだ。新刊も売行き良好書も大幅に割り引くという。公取委は1月だかの出版関係者へのヒアリングではそんなことは要請していないと言うのに。馬脚があらわれたとはこのことだ。再販制度を守るためなどと言うのは単なるお題目で、好きなときに割引したいというのが本音だろう。これでは日書連もぶち切れてしまう。版元が再販制度を守る気がないのなら、勝手にやらせてくれとなってしまう。もはや末期症状だ。
●高須次郎 (緑風出版
/流対協会長)
※『FAX新刊選』 2011年7月・209号より