三省デジ懇 報告書が意味するもの | こんな本があるんです、いま

三省デジ懇 報告書が意味するもの

経済産業省、文部科学省、総務省の三省が共催する「デジタルネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第3回懇談会が、6月22日、港区にある三田共用会議所で開かれた。懇談会では、懇談会報告書案が報告され、討議の上で了承された。

報告書 は、具体的施策とアクションプランとして次のことを提言している。


1 電子出版における日本語基本表現に係る国内ファイルフォーマット(中間(交換)フォーマット)の共通化をはかるため、「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」を設置すること。
 この中間フォーマットをつくることにより、電子出版におけるコスト削減、作成期間の短縮が可能となり、電子出版をさまざまなプラットフォーム、端末で利用できるようになる。具体的には、日本語表現に実績のあるファイルフォーマットであるシャープの「XMDF」とボイジャーの「ドットブック」が協調して、統一規格策定のための検討・実証が行われることになった。

2 電子出版物など、出版物の権利処理の円滑化による取引コストの削減と利害関係者に対する適正な利益還元をはかるため、著作者や出版者等で構成する「著作物・出版物の権利処理の円滑化推進に関する検討会議(仮称)」を設置すること。

3 あらゆる出版物を簡単に探し出して利用できるよう、紙の出版物と電子出版の双方を扱う書誌情報(MARC等)フォーマットの確立のため、「電子出版書誌データフォーマット標準化会議(仮称)」を設置すること。具体的には、国立国会図書館のJAPAN-MARCの仕様変更等と連携して具体的な検討と実証が行われる。

4 デジタルネットワーク社会における図書館(国立国会図書館、公立図書館等)の公共サービスの在り方を検討する「デジタルネットワーク社会における図
書館の在り方検討協議会(仮称)」を設置すること。著作者や出版者、書店等の関係者との合意を前提としているが、合意が得られたものから逐次実現に向けた取り組みを実施する。具体的には、国立国会図書館の蔵書の全文検索、図書館における電子出版物の貸与サービス、電子出版物の家族や友人など特定のコミュニティ内での貸与サービスなどが検討される。


1については、現在、世界の電子出版でAppleやGoogle、SONYなどがEPUB(イーパブ)を閲覧フォーマットとして採用している。しかし日本語の縦組の組版規則が反映されていないことから、日本語組版規則に則ったファイルフォーマットをつくることにした。だが問題は、仮にこれができたとしても、EPUBの日本語仕様版出現の可能性や、WTO(世界貿易機関)のTBT協定に基づく国際規格(公的標準)として認めさせる必要など、市場での競争力や外交力を含めた課題があるという。つくっても、普及できるかどうかは未知数ということだ。先日行った流対協の電子書籍アンケートでも明らかなように、中小出版社としては品切れ本のデジタル化などが当面の課題である。電子書籍対応のDTP化を社内的に整備し、出版契約のデジタル対応をしておけば、そう慌てる必要はない。

2については、絶版書籍、「孤児作品」などの権利情報、出版物の二次使用の際の権利処理、など電子出版を含む出版物の著作権の集中管理と処理を行うことを検討することになろう。4とも関連して、長尾構想(国立国会図書館長)にある国立国会図書館の蔵書を館外へ利用させていくための配信・権利処理センターのようなものになっていくと問題は大きい。出版者が出版物の普及伝達者として著作権者から紙だけでなく電子出版を含む広汎な利用の権利を委託され、それを集中的に管理していくというのが著作者や出版者の権利保護になるし、実務的にも望ましい。流対協の有志で組織したJPCA(日本出版著作権協会)は、著作権等管理事業法に基づく著作権処理組織で、複写、テレビでの利用、海外翻訳などわずかだがそうした処理を行っている。こうした出版社主導の活動を強化する意味でも出版契約書を独占許諾型のものに改めていく必要がある

3については、現在図書館で普及しているTRC、日販図書館サービスなど民間MARCとの調整の問題がある。JAPAN-MARCは利用までに時間がかかる欠点があるが、国際性がある。国会図書館はJAPAN-MARCのフォーマットをMARC21(米国議会図書館フォーマット)に仕様変更を進めようとしている。標準化に総論賛成でもTRC・日販など書店・取次業界をも巻き込んだ調整となろう。

4については、著作者や出版者、書店等の関係者との合意を前提としているとはいいながら、長尾構想が一歩進んだといえるのか、注意したい。全文検索は書籍データの電子納本制と絡んでいる。図書館が貸与サービスを突破口に、一般読者に電子書籍を配信する可能性がある。
 これについては、議論の中で里中満智子構成員が、これまでも図書館貸し出しに著者、出版社に何の補償もないことから「図書館にわだかまりを感じてきた」とのべ、この構想に反対する主旨の発言があった。いまや図書館の年間貸し出し册数は、書籍の年間販売部数に肉薄している現実がある。出版社委員から官による民業圧迫との発言も出た。

これ以外の項目もいろいろと報告書にあるように議論されたが、出版者が要求していた出版者の権利の付与は「可否を含めて検討」ということで見送られた。これは致命的である。デジタルネットワーク社会で出版社が生き延びていくためには不可欠なのにである。報告書で長尾構想は葬られたのではなく、一歩踏み出したともいえる。そしてこの4つの会議で検討される課題について向こう1年以内に結論をだし、具体的に動いていく。出版者・著者の権利があまりに侵されるようなら、電子納本制に反対するだけでなく、国会図書館への納本の拒否も視野にいれる必要があろう。

流対協はヒアリングを受けただけで構成員を送れなかったが、取次業界代表も入っていない。今後、電子出版物が電子通信網だけで流通するだろうか。流通に関してだけでなく、権利や書籍の収蔵なども含め、この三省デジ懇に最も欠けていて致命的なのは、行く末を推し量るのに来し方を省みないことであろう。


●高須次郎 緑風出版 /流対協会長)


『FAX新刊選』 2010年7月・197号より