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アメリカ人は有名人に詳しい。
有名人を扱う雑誌は非常にたくさん読まれていて、ゴシップ週刊誌は新聞雑誌のうちで実質的に売上げを伸ばしている数少ない分野の1つである。
有名人を取り上げる『アクセス・ハリウッド』などのテレビ番組もあるし、CNNやニュース番組『トゥディ』のような正統派の報道番組からも有名人の奇行に関するニュースを知る。
2007年に創刊された芸能誌『ピープル』モバイル版は、「セレブリティの最新情報を・・・あなたの携帯電話に」届けてくれる(ブリトニー・スピアーズの親権問題の最新情報に1分たりとも遅れをとるわけにはいかない)
2006年にグーグルの検索数が一番多かったのはパリス・ヒルトンで、それは本人が刑務所に入る「前」だった。
翌2007年のグーグルニュース検索数トップ3は『アメリカン・アイドル』、YOUTUBE、そしてブリトニー・スピアーズだった。
有名人のニュースはひっきりなしに流れてくるのに、多くのアメリカ人は彼らの「本当の姿」を知らない。
彼らの私生活を見ることもなければ、私的な発言を耳にすることもないからである(セレブのゴシップを扱うネットサイトのTMZは、そこに尽力しているようだが)
有名人に関する調査は多くない。
そうかと言って、私たちが出向いていってパーソナリティ診断を受けてもらうわけにもいかない。
ドルー・ビンスキー医師はそれをやった例外である。
全国放送のラジオ番組『ラブライン』のホストを務めるビンスキーは、ゲスト有名人200名に詰め寄り、ナルシシズムの調査で一般的なテストである自己愛人格尺度を受けてもらった。
そして共同研究者のマーク・ヤングとともに、有名人のナルシシズムの点数が平均と比べてきわめて高いことを発見した。
番組のもう1人のホストであるアダム・カローラは、その結果を聞いて驚きもしなかった。
わかりきった結果だったかどうかはさておき、この調査は有名人の間でナルシシズムが猛威を振るっていることを初めて証明した。
また、ナルシシズムとキャリアの長さに相関関係がないことも明らかにし、有名人のナルシシズムが彼らが特別扱いされる以前からのものであることを示した。
ヤングとビンスキーは各分野の有名人を調べ、誰が最大のナルシシストであるかも見出した。
俳優だろうか、それともコメディアンかミュージシャンか?
じつはそれのどれでもない。
リアリティ番組に出演する人気芸能人だったのである。
言い換えれば、芸能人がドラマの役としてではなく本人として出演し、台本どおりではない本物の体験をするのを見せる番組のほうがより程度の強いナルシシストを出演させているのである。
高視聴率番組の大半を占めるリアリティ番組は、いわばナルシシズムの展示会で、物欲に囚われた虚栄心の強い反社会的な振る舞いをあたかも普通のことのように見せている。
フィクション番組は子供の世界観の輪郭を形作るという大きい影響力がある。
リアリティ番組の影響はこの意味でさらに大きい。
架空の話でも脚本に基づくものでもないため、知的能力が充分に発達していない子供は誰でもこのように振る舞うものだと思い込んでしまうのである。
リアリティ番組のスターもそのほかの有名人も、ナルシシズムの広まりに重大な責任を負っている。
感染症をばらまく人を疫学では「スーパースプレッダー」という。
過去のスーパースプレッダーの有名な例は1900年~1915年のあいだに50人以上を腸チフスに感染させた料理人、チフスのメアリーである。
有名人と有名人に支配されたメディアは、ナルシシズムのスーパースプレッダーだ。
アメリカ人はゴシップ誌や映画、CM、リアリティ番組を通じてナルシシズムのウイルスを日常的に浴びせられている。
ビンスキーとヤングの調査が示すとおり、アメリカ人は自分自身の虜になっている人の虜になっているのである。
この新しい生活文化では、ナルシシストであることがカッコイイのだ。
もちろんセレブなら誰でも彼でもナルシシストだというわけではない。
だが困ったことに、よく名前を聞く人はナルシシストなのである。
ナルシシストはスポットライトを浴びつづける達人だ。
注目されるのが大好きで、そのためならなんでもする。
芸能界はナルシシズムが役に立つ数少ない領域の1つだ。
人前で何かをするのがナルシシストの生きがいなのである。
普通の人は大勢の人の前に立つと不安でたまらなくなるのに、ナルシシストは逆にそうしたがる。
リアリティ番組が放送され、有名人のニュースがこの流行病を広く遠くへばらまいている。
ナルシシズム・スーパースプレッダーの女王は、パリス・ヒルトンだろう。
パリスは2007年5月に、飲酒運転で免許停止中だったにもかかわらず運転した罪で、45日間の禁固刑を言い渡された。
彼女はすぐさま自分の過失ではないと抗議し、広報担当者が運転してはいけないと言ってくれなかったのだと主張した。
つづいてカリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーに恩赦を求めて接触しようとした。
数百人が署名した「パリスを自由に」の嘆願書には、パリスは「私たちの退屈な生活に美と興奮を与えてくれるから」刑務所に入るべきではないと書かれていた。
あるコメンテーターが述べたとおり、「嘆願書を書いた人たちは、パリスが無罪だとは言っていない。ただ彼女がすてきだから釈放を望むと言っているのだ」
収監中の2007年7月に、パリスはこう発言した。
「私を崇拝するたくさんの女の子から手紙をもらったわ。それで私には責任があるんだって気づいたの。これからはできるだけ良いお手本になるつもりよ」
また、慈善家になって態度を改めるとも語った。
その1ヶ月後、写真に撮られたパリスが着ていたシャツには、なんとパリス自身の姿がシルクスクリーンでプリントされていた。
もしパリスが慈善家になったのだとしても、彼女自身はまだそう言っていない。
そして、パリスが自分のことをしゃべらないはずはないのである。
アルコール依存症のリハビリ施設への入出所を繰り返して話題になったリンジー・ローハンも、謙虚な女性とはとても言い難い。
『ニューヨークポスト』紙に掲載されたリンジーの手紙には、
「私は自分よりも年下の世代ばかりでなく、年上の世代にも大きな影響力がある」と書かれていた。
辛辣な雑誌記事に対しては、
「私たちが関心を寄せている現実の問題にメディアの注目を向けさせるためなら、私はセレブリティの立場を大いに利用するつもりです」と書いた。
署名は「あなたのエンターティナー」である。
そして3大お騒がせセレブの最後の1人、ブリトニー・スピアーズはあまりの自己中心ぶりが災いして友人が寄りつかなくなり、いまは孤独だと報じられている。
ビンスキーとヤングの調査では、同じ有名人でも男性よりも女性のほうがナルシシズム傾向が強いことがわかった。
これは通常と逆で、普通は女性よりも男性のほうが強い。
もちろん、ナルシシストの男性有名人も簡単に見つかる。
ロックスターのジョエル・マッデン(ロックバンドGOOD CHARLOTTEのボーカル)は妻のニコール・リッチーの妊娠中、男の子が生まれるのを望んでいた。
「世界はもう1人のジョエルを望んでいる」というのがその理由だ(娘が生まれて落胆していなければいいが)
また、シンガーのジャスティン・ティンバーレイクは、「グラミー賞は視聴率のために俺を利用した。ほら見ろ、18%も伸びたんだぜ!」と不平を鳴らした。
ライブで新曲を披露する前には、「気に入らなきゃ失せろ!」と言った。
また、深夜トーク番組『レイト・レイト・ショー』のホストだったクレイグ・キルボーンとデートした女性は、『Usウィークリー』誌に次のように告白した。
「彼は私を自宅へ連れて行き、録画した自分の番組を見せました。それから自分が載っている雑誌を引っ張り出してきました」
ある記者は私たちのネット調査に次のように書き込んでいる。
「私は10年以上にわたって、大勢の有名な俳優や女優にインタビューしてきた。彼らの話はだいたいこんな調子だ。『私こう思う、私はこう信じている、私はこうだ、私が夢中なのはこういうことだ、私は自分のすることで世界が変わると思いたい。私、私、さらに私、一流の私、私のこと話した?私は多くの人の手本、私はまさしく神の化身。私は自分のすることに夢中でそれしか考えていないので、私がそこにいる必要などなかった。言われなくても自分からどんどん『私のこと』を語るのだ』」
有名人の「私のこと」の最新情報を追っかけるアメリカ人が増えている。
新聞や従来タイプの女性誌の発行部数は徐々に減っているが、セレブ雑誌『Usウィークリー』の発行部数は2007年に10%伸び(190万部)、ライバルのタブロイド誌『OK!ウィークリー』は23%も増加した(93万5000部)
スポーツはナルシシストの比率のわりに頻繁にトップ記事を飾るもう1つの分野である。
バリー・ボンズはハンク・アーロンの通算755本のホームラン記録を破ったが、もし薬物を使用していなくても、ボンズの人を食ったけんか腰の態度のせいで、褒めそやす者はいなかっただろう。
あるスポーツコメンテーターが言うには、「チームメイトにさえ好かれていない」のである。
また、2006年冬季オリンピックでアルペンスキー2種目を途中棄権し、もう1種目もあわやというところだったボディー・ミラーは、こう言った。
「自分流にやっただけだ。俺は殉教者じゃないし、模範生でもない。ただ騒ぎに行きたいのさ。それでほら、ここでも騒いでやったのさ」
ミラーはトレーニング不足だったことを認めたが、それには当然の理由があると強弁した。
「生活の満足度が最優先だ。この2週間は最高だったね。パーティーへ行って、オリンピック級のつきあいをしたよ」
酒を飲んでもメダルをもらえないのはお気の毒さまなことだ。