「アアア」というマイクテストの甲高い声が、耳を貫きます。
市場市民A: バカやろ~。ボリューム絞れよ。
市場市民B: わりぃわりぃ。
和気あいあいとした雰囲気が、その場を支配しています。
場所は人がひしめく聖山ビル4F、市場市民議会です。
場所を変えれば、渋谷周辺で携帯を見つめる人、人、人。
これより15分後、正午1:00分よりチンユさんによる、
護民官公認のインターネット放送が行われるとあって、
日本での新たな市民階級、市場市民の興奮はいやが応にも高まります。
冬の快晴の中、この言わば市民政府放送が行われました。
チンユ護民官補佐官: 市場市民のみなさん、こんにちは。
やや改まって、チンユさんの放送が始まります。
チンユ護民官補佐官: 今日、皆さんに報告があります。
既にお知りの方もいると思いますが、
昨今、我々は、経済界の依頼により、
我々の仲間を経済界を支える労働力として工場などに送り出しています。
そして我々市場市民は、そういった協力関係を築いた経済界の一部に対して、
我々の行使できる最大の力、「購買権の行使」によって、
製品・サービスを買い支え、共存関係を構築することに成功しました。
チンユ護民官補佐官: この一連の事実を市場市民たる皆さんはどう見るでしょうか。
僭越ながら私の私見を、ここで述べさせていただきたいと思います。
かつて我々が日本市民であった頃、
我々市民は、その力の行使の方法を知りませんでした。
まったく無力であったと言っても間違いはありません。
しかし我々無力な市民が、同じ市民階級でありなが、
力を有する政治階級、経済階級、官僚階級と決別し、
我々の意志反映機関、「市場市民議会」を作った事で、
我々は、政財界に対し、我々の力を知らしめる為の権力を見出す事に成功しました。
「購買権」の行使によって、経済界は我々の力を認め、
我々を対等なパートナーと認め、
協力、いや、庇護すら求めてきています。
これは旧日本社会が、
自らの労働力を売るしか生活手段がないと揶揄された、
我々市場市民の力を認め、
市場市民の協力なしでは成り立たない事を認めた事を意味します。
そしてこれらの事実は、
我々市場市民の勝利を意味する事実に、ほかなりません。
我々は勝利しました。
これからの社会。
勝利者たる我々が、力を失いつつある政財界に対して、
手を差し伸べる。
来るべき新時代、我々市場市民はそんな度量を示そうではありませんか。
チンユさんのインターネットネット放送を見る市場市民さん達の熱狂が、
そこ此処で湧き起こっています。
しかし社会の、地下の、・・・深いところで。
ギリギリという歯噛みが木霊します。
それは、日本市民の中というよりは、市場市民の中で、
チンユさんの味方であるはずの、市場市民議会のほうから・・・・・・