楢崎トキ: 本当は、もっと出すつもりだったんどすぇ
市場市民通貨、ディア通貨基金最大の出資者、楢崎トキさんは、
目の前に座る紫麗を、揶揄するような目つきで睨みつけた。
楢崎トキ: それを紫麗はんが、2億でいいって言うさかい。これじゃ、うちがみみっちい女と思われるちがいますか。
:ほんま、かなわんわー
実業というよりも、投機の手腕で巨財をなした楢崎トキさんは、
自身の別邸の年若い客人を困らせてやろうと、またも言いますが、
当の紫麗さんは知らぬふりを決め込んでる。
楢崎トキ: うちはねぇ、チンユはんには20億、いや、50億は持っていってもらおと思っとりはったんどす
:それを紫麗はんがみみっちぃ事言うさかい、ディアは破綻するんですやろ
:ねぇ、聞いておすか、紫麗はん?
苦情の相手の紫麗さんはというと、
彼女の相棒のシンさんの呆れ果てた視線をものともせず、
この家の主人の用意した高級中華を思う存分といったところ。
紫麗: おいシン、エビチリを取ってくれ。エビチリ。エビチリ
シン: わかった、わかった。だからちょっとは遠慮しろ
満足気に高級中華をたいらげる紫麗さんに、シンさんも困り顔。
紫麗: 何を言うシン。これは人助けだ
シンさんに言う素振りで、聞こえよがしに言う紫麗さん。
紫麗: いいかシン
:東西の歴史を見れば、世の変革を生むのは十中八九、経済問題だ。世の富が偏りすぎると、富者は殺され、富は市場にばら撒かれる
:だから私はこうして友の富の散財に手を貸している
そう言うと女神の表情で、天を仰ぐ紫麗さん。
シン: エビチリを食べてな
呆れ顔になるシンさんだった。
紫麗: 人助けついでにシャンパンも貰って来い、シン
楢崎トキ: シャンパンは持ってこさせるさかい、こっちの話をしまひょか。紫麗はん、あんさん、チンユはんに含むところがあるんじゃないですか?
:そりゃ、当然どす
紫麗: 含むところ?
楢崎トキ: だってそうでっしゃろ。チンユはんは、昔は、紫麗はんの下にいたお人でっしゃろ。紫麗はんが施したお膳立てを、横から掻っ攫っていったお人どす。だから、あないな意地悪を・・・・
紫麗: それは違うぞトキ
:世に情報戦を仕掛け、表面平等と言われる日本社会から、持たざる者、実質平民階級を遊離させ、その平民階級を原動力に世を改革するこの作戦は、チンユ君、シン、そして私の共同作戦だ
:今までの成果を利用する権利は、三人共にある
:それに私は喜んでいるんだよ。チンユ君が、この状況を利用して、しかもリュウジ君という新しい戦力を見出してくれた事をもな
楢崎トキ: じゃぁ、何でわざわざ破綻するように仕向けたんどす
紫麗: 破綻はしないさ。だってトキが出資するから。50億。そうだろ?
楢崎トキ: な
紫麗: そろそろチンユ君から電話が来るころじゃないのか
楢崎トキ: じゃぁ、はじめから
紫麗: この状況を少々利用させてもらう計画だったんだ。悪いな
楢崎トキ: 紫麗はん、あんさんも一枚かむおつもりおす
紫麗: チンユ君には悪いが、あのまま行けば、市場市民議会は空中分解だ
:私なりの補強策を引っさげて乗り込む事になる。市場市民の3分の1は、このシンが仕切ることになるだろう
シン: ちょっと紫麗、聞いてないぞ
紫麗: ま、そういう事だ。腹をくくっておく事だ。シン。
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