希望の環(リング) | 世界のブナの森

希望の環(リング)

9月の動物学会の折、東邦大の大越健嗣さんが講演されたなかで、アサリが津波の際に流されたりして環境の変化により大きなストレスを受け、成長が一時的に停止した際の溝が殻に刻み込まれているという話を紹介された。大越さんはこれを「津波をくぐりぬけて成長した『希望の環』と呼んでいます」と話された。ぜひ自分の目で確かめねばと思い、以後は名取の海岸のコタマガイなどの貝殻に注意していたが、確かに大部分の個体にはっきりとした溝が刻み込まれている。アサリも自分で探したいと思っていたが、いちだんと冷え込んだ今日になって干潮時刻が日中と重なり、早朝から海岸に出かけた。


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殻の先から1/3付近に深い傷を残したまま成長したアサリ。

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生きている個体だが、貝殻表面の斑紋が磨耗してほぼ消失している。貝殻を形成する器官が傷を負ったのだろう、殻の左側は大きく窪んでいた。それでも津波の際に溝が刻まれた後に、ずいぶん成長していることが分かる。

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深い溝が刻まれ、黒い斑紋もいちど消失してからまた現れている。

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模様はほとんど変化していないが、深い溝が刻み込まれ、その先に白い帯が入っている。

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汀線に、引きちぎられたクロマツの根が伸びている。つまり、震災前はここはクロマツの生える陸地だったはずで、クロマツが津波で流された上にずいぶん沈降してしまったことが伺い知れる。アサリは長靴がギリギリの深さのあたりで、それなりに時間をかけて探したものの、ごく少数が見られたのみだった。岸辺には古い貝殻が一面に打ち上げられており、津波によって相当数が死滅したのだろう。12月10日