小一時間ほど経ってからアレン君はホテルのオーナーと一緒に
部屋に帰ってきた。

ベッドから起き上がって結果報告を待つ私に、アレンは言った。

タリバンは私がこのホテルに泊まっている事を確認して帰って
いった。そして、この私は二十四時間以内にこの国から出国しな
ければいけない。出国しない場合、彼らは私を逮捕すると言った。
取り調べなんかない。ストレートで牢屋行きだと思う。

ronflat(私の名前)、タリバンに君の事を訊かれたが、私は何も
話していない。ただ、道で会ったのだ。としか話していないから
安心してくれ。このホテルのオーナーも君をかくまってくれると
言ってくれている。」

長い髭を上品に切り揃え、白い、砂埃のついていないターバンを
巻いたホテルのオーナーは、私と視線が合うとニッコリと笑った。

アレンがオーナーにロシア語で二言三言話し掛ける。

「タリバンに君は渡さない。君は遠い国からやってきた大切なお客
さんだ。君は大切にされれば、今度アフガニスタンにやってきた時
に、日本製のカメラを私に買ってきてくれるだろう。」

オーナーはゆっくりとした口調とごく簡単な英単語をつなげて、彼
のささやかな望みを私に伝えた。
(しかしなんと日本製品は人気があるのだろう。しみじみ。)

「もちろんですとも!」即答した私に、オーナーは握手を求めて、
満足そうに微笑んだ。

そんなやりとりの間にもアレンは手早く土ぼこりで汚れた顔を洗い、
体をぬれタオルで拭き、荷物をカバンに詰めなおして出発の準備を
済ませていた。
そして私に向き直ると、その大きな肩をすくめて見せた。

「撮るべき写真も撮れていないんだが、こんな事になってしまった。
もちろん出世もしたいが、命が惜しい。今日はジャララバードまで
行って、明日の朝に国境を越えるよ。ペシャワールで写真を撮っ
て、イスラムの記事を二つ三つ書いて帰国するつもりだ。」

そこでようやく私はアレンがすぐにでも出発してしまう事に気がつい
た。急がないと日が暮れるのだ。

この国の交通機関は夜の間、完全に止まってしまうのだ。
特に最悪の悪路として記憶に新しいカブールとペシャワールを結ぶ
道には大きな砲弾の穴が幾つも開いており、いくらライトを照らし
ても走行は困難に思えた。

彼がそう決めたのなら、アレンは一刻も早く国境に向かわなければ
ならなかった。

想定はしていたが、心強い仲間が出来た後に一人になるのは辛かった。