逆浸透膜法等 濃縮・解説  | ろくでなしチャンのブログ

逆浸透膜法等 濃縮・解説 

                 それとなく 11 葡萄果汁の濃縮

 

 

逆浸透膜法

 

 葡萄果汁を水分とマストの中のその他の成分に分類してみましょう。すると水(約82%)と、その他の成分の分子に違いがあることが判ります。その他の成分の大部分は水の分子より大きいのです。そこで水の分子は通り抜けることが出来ますが、その他の大部分の分子が通り抜けれないミクロの孔(あな)の開いたプラスチック製の浸透膜に通してみましょう。という作業を行うこととします。実際にはマストに圧力を加えて水分を取り除くもので簡単に言うと濾過みたいなものです。

 但し、正確には濾過ではなく浸透法ですので原理は、2種類の濃度の液体の間に透過性の膜を設けると、濃度の薄い液体は濃度の濃い液体へ流れ、やがて同一濃度の液体になることだと思います。

 

 この手法は浸透膜は使うのですが、片方に水、もう片方にマストと言うことではなく、マストに圧力をかけると浸透膜を通って濃度の低い水が浸透膜の反対側に作られる。本来濃度の薄い方から濃度の濃い方へと浸透するはずが、加圧によって濃い方から薄い方へと逆になるので逆浸透膜法とよばれるのではないかと思います。

 

 具体的には、醗酵前のマストに対して行われるので浸透膜の目詰まりを防ぐために固形物の除去が必要となります。醸造家は低温浸漬の手法もあるようにタンニン等の抽出に心砕いているので固形物を除去することに対して嫌がることもあるようです。固形物を取除いたとしてもマストに溶けた微粒子が浸透膜を詰まらせることとなるので、マストを濾過する作業が行われます。これはフィルターに対して平行にマストを流すことにより、一旦フィルターに付いた微粒子も洗い流されることにより濾過されることになるようでクロスフロー濾過又はタンジェンシャル濾過と呼ばれる手法です。

 

 マストの加圧は1平方センチ当たり105キロだとか。逆浸透膜法でマストが濃縮され水分が分離されることになりますが、正確には無味無臭の透過液の正体は水とアルコールと未解離の酢酸なのだそうです。透過液にアルコールが含まれるため、この透過液を蒸留することによりアルコール濃度の調整も可能となります。

 

 結果的にマストは濃縮されエキス分は上昇します。他方、水溶性の芳香成分も水と一緒に除去されているのではないかと言われる方もいるようです。逆浸透膜法はもともと海水を真水にする方法として開発されたもののようですがマストに応用と言ったことでしょう。

 1987年にシャトー・レオヴィル・ラスカーズで試験的に行われたとか。

 

真空蒸留法(エントロピー・エヴァポレーション)

 

 マストを入れた容器を真空にし摂氏25度に加熱すると、水分は蒸発してしまいます。約摂氏20度で水分は蒸発すると言われております。高山では水の沸点が低くなるとの解説をされるとなんか判ったような。赤ワインの醗酵は30度を超える場合もあり、25度では殆どワインに影響を与えないとの説もありますが、実際は摂氏45度で加熱しないと効果は期待できないと言われる方もおられ、摂氏45度ではワインの性質が大きく変わることになるでしょうし、マストの加熱により香りが失われるようです。また、この手法ではバタースコッチやキャラメルの風味が付いてしまうそうです。

 

クリヨエクストラクシオン

 

 マイナス5度からマイナス10度で収穫した葡萄を氷結させ、プレスすることにより水分は氷で残り、濃縮されたマストを絞り出す技術のようです。

 現実にソーテルヌで使用されているようです。ついでに、ワインの氷結温度は摂氏マイナス2.7度なのだそうです。

 

セニエ(血抜き)

 

 昔から行われている手法のようです。マストは約82%の水分と約18%の糖分と数値化することの難しいタンニンや酸やその他の重要な要素が約1%(合計が100%を超えていますが。)と言われています。そこで香りや味に関する要素で重要な果皮や種子等をそのままに、果汁を一部抜いてしまう、いわば「ウワズミ」を抜いてしまう手法です。結果的に果汁量に対する果皮や種子の割合が増え、香りや味に関する要素が増大するので、濃縮度の高い複雑な味わいの増したワインが出来ることとなるようです。 

 

なぜ濃縮 ?

 

 ワインを作る為には成熟した葡萄の収穫がかかせません。ボルドーでは特に主品種であるカベルネソーヴイニヨンの完熟度がワインの香りや風味に大きく影響を与えます。ですから栽培家は完熟した葡萄を収穫したいわけです。ところがボルドーでは収穫期の気候がよろしくない。雹などに当たったら大打撃、秋雨に当たると葡萄が「水膨れ」と言われ、水っぽいワインになってしまう。完熟を待ちたいが収穫の時期ほ間違えると1年間の苦労が台無しになる。また、気候が不順であるとやはり良い葡萄は採れない。

 ここで格言を1つ「ボルドーで葡萄の完熟を待つのは、雨の中に葡萄を放置するに等しい。」

 それでは、フェノール化合物(ワインの味や風味の決め手)いっぱいのワインを作るには・・・・濃縮がよろしいのでは、との結論のようです。

 

合法なの ?

 

 完成したワインに対する逆浸透膜法を合法とする国は殆どないようです。逆浸透膜法と真空蒸留法はEUにおいて醗酵前の葡萄に対し行うことを認めていますが、全体の20%以下の減少量までで、アルコール濃度は2度の上昇(下げることについては不明)のようです。平成20年現在でカリフォルニア州の半数のワイナリーで使用され(逆浸透膜装置とスピニングコーン法~後掲)ており、特に大規模なワイナリーが多いそうです。ボルドーでは60台の逆浸透膜装置が使われており、真空蒸留装置は120台が稼働し、さらにこれらの技術サービス会社が大繁盛とか。

 

 ところで、これらの装置の使用に関しシャトーでは口を濁すことが多いようです。最新設備の導入とか最新技術の導入には大いにマスコミに対して発表するのに。シャトーでは科学的にワインを作っている(テロワールの反映ではない。)との後ろめたさがあるような。

 王道は、畑環境を整え、収量を減らし、厳格な選果を行ってワインを作ることではないでしょうか。

近代的な濃縮技術を使っても、未熟な香りや青臭さがある場合はこれらも濃縮され好ましくない香りが増幅されることとなるので、一定限の品質のある葡萄であるという条件が必要のようです。また、ワインの生産本数の減少も覚悟しなければなりません。

 

スピニングコーン法(スピニングコーン・カラム)

 

 アルコール減少手法の1つです。暑い地方の葡萄は成熟するに従い糖度がどんどん上がっていきます。糖度の高い葡萄で作ったワインは当然アルコール度数の高いワインとなって、アルコールだけが突出したバランスの悪いワインとなってしまいます。そこで、アルコール度数を下げる必要が生じるようです。遠心力と真空状態によりワインから数種類の揮発性成分を分離し、分離した成分からアルコールのみを除去して残りの成分全てをワインに戻す手法のようです。 

 カリフォルニアの醸造家であるランダム・グラハム氏は「新世界では樹齢の高い葡萄を植えた大きな畑がいくつかありますが、多分暖かすぎるために、風味とアルコール度のバランスをとることがむずかしいようです。葡萄を早めに摘むよりも、余分に熟させてから少しアルコールを抜いたほうが良いワインが出来ます。」と言っておられるようです。

 

 余談ですが、ワイン用の葡萄の糖度はかなり高く、食用葡萄の糖度は15度から18度。ワイン用は20度を越しています。一般に糖度の約半分の濃度のアルコールになるそうで、アルコール濃度13.5度のワイン原料の葡萄糖度は27度なります。

 そんな馬鹿な ! ワイナリーで試食したがそんなに甘くなかったぞ。果物で糖度14度いったら相当甘いぞ。まして20度越えたら、と言われる方に。

 実はワイン用葡萄の酸度は高く、甘さを感じにくいのだそうです。果実の中で葡萄が最も糖度が高いのですが、味的には食せますが、やはり食用が美味しいようです。

 

 アメリカ、英国などの糖度の単位はブリックス(Brix)と呼ばれ、この単位が日本でも一般的に使われているようです。

  糖度(Brix)≒糖分含有率、

  糖度(Brix)≒潜在アルコール度数×1.8 とされています。

 

とすると糖度27度の場合、この数値はアルコール度数の1.8倍ですから、

  糖度27度÷1.8=アルコール濃度15度。

アルコール濃度15度場合は アルコール濃度15×1.8=糖度27度となる。

 

 フランス、ヨーロッパ諸国の糖度の単位はボーメ(Baume`)と呼ばれ果汁に含まれる糖分を全て使いきって発酵させたときのアルコール度数(潜在アルコール度数)と大凡一致するそうです。

   糖度(Baume`)≒潜在度数(%)、

   糖度(Baume`)≒実アルコール度数(%)+残糖分。

 

出典 集英社 ワインの自由 堀賢一著

    河出書房新社 ワインの科学 ジェイミー・グッド著 等々

 

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