ラロ・シフリンの「タワーリング・トッカータ」 | "楽音楽"の日々

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音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

アルゼンチン生まれのジャズ・ピアニスト、ラロ・シフリン(Lalo Schifrin)は、1976年に初めてCTIレーベルでのリーダー・アルバム「Black Widow」をリリースしました。それがある程度の成功を収めたのか、同じ年の年末に次作のレコーディングを行って、翌年にリリースするというアイドル歌手並みのスケジュールになりました。
そういった流れで発表されたのが「タワーリング・トッカータ(Towering Toccata)」です。
$"楽音楽"の日々-タワーリング
ちょっと笑ってしまうようなジャケット・デザインですが、アルバムの内容をちゃんと表現しているので、単に冗談で作ったんじゃないことがわかります。
1976年のヒット作「キングコング」のテーマをリメイクしてるんですが、映画ではコングが貿易センター・ビルに登るんですよね。で、ラロがキングコングみたいな着ぐるみを着て、貿易センター・ビルの間に立ってるワケです。
アルバム・タイトルも、当然「タワーリング・インフェルノ」をもじってるので、それにもあてはまるジャケット・デザインでしょう。

私は「Black Widow」でラロのファンになっていたので、迷わず購入したのでした。

結果は、「当たりっ!」でした。
ちょっと「カッチリ」した作りになりすぎていた前作に比べると、ドラムスがスティーヴ・ガッド(Steve Gadd)になって、柔軟なファンキーさが加わっています。
それにアンソニー・ジャクソン(Anthony Jackson)とウィル・リー(Will Lee)のベース、エリック・ゲイル(Eric Gale)とジョン・トロペイ(John Tropea)のギターが鉄壁のリズムを作り上げています。

今作のメインは、翌年にCTIからリーダー・アルバムをリリースするフルート奏者ジェレミー・スタイグ(Jeremy Steig)と、エリック・ゲイルのアドリブです。ほとんど全編にわたってふたりのソロが聴けます。
特にジェレミーのノイジー・フルート(声を出しながら吹くためにワイルドさが出る奏法)が印象的で、ラロのホーン・アレンジが冴えるハデな編曲にぴったりです。
それに影響されたのか、エリックもスタッフ(Stuff)や自身のソロ作品よりもワイルドに弾きまくっています。

このアルバムでは、カヴァーは2曲です。
「Towering Toccata」は、バッハの「トッカータとフーガ」のディスコ・リズム版です。
リズムはディスコなんですが、アンソニー・ジャクソンの印象的なベース・パターンに乗せて、フルートとギターのハデなソロが炸裂していて、聴いていて燃えます!
もう一曲は、例の「キングコング」のテーマ曲です。
ジョン・バリー(John Barry)の手になるリリカルなメロディを、ラロはパロディ化しているかのようにファンキーにアレンジしています。邦題も「燃えよキングコング」なんて、悪ノリしています。
こちらもクラヴィネットの重厚なリズムに、ジェレミーとエリックのソロが盛り上げてくれます。

ラロのキーボードは、取り立てて個性が強いものではありません。
それよりも、自作のメロディの素晴らしさとアレンジのカラフルさが目立っています。
彼の代表作である「スパイ大作戦」や「燃えよドラゴン」、「ダーティ・ハリー」、「ブリット」などでわかるように、スリリングなメロディもうまいんですが、逆にスローな曲での印象的な「美メロ」の作り方が絶品です。
映画「アニマル大戦争(Day Of The Animals)」(私は観ていません。)から「Frances' Theme」のメロディは甘く美しいもので、映画はB級かC級ですが、音楽だけは確実に残る見本のような例です。
ジェレミーの美しいフルートがメロディを奏でますが、このスローな曲でのスティーヴのドラミングが、彼の個性が出ていて、ファンなら思わずニヤけてしまいそうなパターンが出てきます。
もうひとつ、映画「鷲は舞いおりた(The Eagles Has Landed)」(映画は、散漫な「駄作」でした。)から「Eagles In Love」は、ラロの生ピアノのメロディに思い入れたっぷりなエリックのギターによるオブリガートが夢見心地にさせてくれます。
戦争映画らしいマーチ調のテーマ曲も入っているサウンドトラック盤も、なかなかの出来です。
$"楽音楽"の日々-鷲は舞いおりた

アルバムのラストを飾るのは、ラロの代表作だと私が勝手に思っている映画「ジェット・ローラー・コースター(Roller Coaster)」のテーマ曲です。
とてもファンキーで、ラロらしいちょっとコミカルな雰囲気も持っている佳曲だと思います。
実は、サウンドトラック盤がラロの幅広い音楽性をフルに発揮した傑作だと思っていますので、次の機会に紹介したいと思います。
$"楽音楽"の日々-ローラーコースター

ドラムス、ベース、ギターの3人がそのまま参加して、R&Bフュージョンの傑作と呼ばれているQuincy Jonesの「スタッフ・ライク・ザット」が録音されたのは、今作のちょうど一年後のことになるのです。
まさに「絶頂期」を迎えつつあるリズム・セクションを聴くだけでも、この「タワーリング・トッカータ」を聴く価値があると思うのです。