アイドルばかり聴かないで | …

i am so disapointed.

来たる7月20日、Negiccoの結成14周年の記念日に、ベスト・アルバム「Negicco 2011~2017 -BEST- 2」がリリースされる。そこで、わりと新規のファンであるがゆえ、収録曲のリリースをほとんどリアルタイムで体験していない私が、当時の状況を想像したり情報を調べたりしながら書いていくシリーズの第5回目である。

 

今回は、「Negicco 2011~2017 -BEST- 2」の7曲目に収録される「アイドルばかり聴かないで」である。

 

当時、私はNegiccoのことをほとんど知らないのだが、おそらくこの曲を機に、全国的な知名度が少し上がったのかな、と思わなくもない。

 

なぜならこの頃、アイドルにはほとんど興味が無かった私が、なぜかこの曲のことは知っていたからである。

 

おそらく、ネットニュースかまとめサイト的なもので見たのであろう。小西康陽がローカルアイドルをプロデュースし、その内容がアイドルの握手会商法を揶揄した内容である、とそのような理解をしていたはずである。

 

小西康陽といえば、ピチカート・ファイヴでの活動が有名であり、私は1985年にリリースされたデビュー・シングル「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」から買っていたのだが、じつは2年後にリリースされたアルバム「カップルズ」には当時はあまりピンとこなくて、その後、しばらく聴かなくなっていた。

 

1990年にリリースされたユニークな編集盤、「月面軟着陸」がすごく気に入り、それから再び聴くようになったが、当時のボーカリストであった田島貴男はORIGINAL LOVEでの活動に専念するためにグループを脱退、替わって元ポータブル・ロックの野宮真貴が新しいボーカリストとなった。

 

その後、いわゆる「渋谷系」と呼ばれる音楽の潮流の、中心的な存在として、世間に認知されていったのであった。

 

この「渋谷系」というワードについては、先日のフリッパーズ・ギター「カメラ・トーク」発売記念日あたりに、いくつかの意見を目にしたのだが、当時、渋谷区に住んでいて、「渋谷系」にカテゴライズされるとされている音楽のいくつかをリアルタイムで消費していた私は、便利なのでよく使っている。

 

ピチカート・ファイヴのボーカリストであった野宮真貴は少し前に「野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~」というアルバムをリリースしていて、その中でフリッパーズ・ギターの小山田圭吾、小沢健二から成るDOUBLEKNOCKOUTCORPORATIONがおニャン子クラブ出身のアイドル、渡辺満里奈に提供した「大好きなシャツ(1990旅行作戦)」をカバーしたりしている。

 

このぐらいの軽さが丁度いいような気もするのだが、もちろん完全な余談である。

 

閑話休題。

 

とりあえず、当時、「アイドルばかり聴かないで」についてのインターネット記事のようなものを見かけた私は、アイドルグループもいまや色々と多様化していて、「渋谷系」の要素を取り入れているものもあるのか、という程度の認識をしたはずである。

 

その時点で曲を実際に聴いてみるほど興味は持たなかったが、歌詞の一部は読んだのかもしれない。そこであの「どんなに握手をしたって あのコとはデートとかできないのよ ざんねーん!!」という強烈なフレーズを音や歌が無い状態で読んで、確かに面白いけれども、何だかサブカルというか脱構築というか、そのような印象を受けて、あまり良い気はしていなかったと思う。

 

「アイドルばかり聴かないで」がリリースされたのは2013年5月29日、奇しくも「AKB48 32ndシングル選抜総選挙」の投票期間中であった。前年、HKT48に移籍した指原莉乃が初めて1位に選ばれ、「恋するフォーチューンクッキー」をセンターで歌った。

 

年末にアイドルファンのインターネット投票によって決まる「アイドル楽曲大賞」というのがあるが、「メジャーアイドル楽曲部門」において、この年の1位はAKB48「恋するフォーチューンクッキー」、2位に選ばれたのはNegicco「アイドルばかり聴かないで」であった。Negiccoは次のシングルである「ときめきのヘッドライナー」も7位に選ばれ、2曲がトップ10入りした唯一のグループとなっている(AKB48の渡辺麻友はソロでリリースした「ラッパ練習中」が6位にランクインしている)。

 

「アルバム部門」では「Melody Palette」が1位、グループに投票する「推し箱部門」では東京女子流に続く2位と、かなりの強さを見せている。

 

「アイドルばかり聴かないで」のオリコン最高位は23位で、この時点での過去最高を更新している。

 

私が実際に「アイドルばかり聴かないで」を聴くのは、リリースから2年9ヶ月以上が経過した、やはり昨年3月3日の夜であった。おそらく初めにYouTubeでMVを観たのではないかという気もするのだが、いまとなっては記憶が定かではない。

 

とにかく、そのクオリティーの高さに驚いたのである。以前に抱いていたあまり良くない先入観は、いとも簡単に覆された。

 

単にアーティストがアイドルに軽く曲を提供したというレベルを、大きく超えている。これは本気の仕事である。

 

調べていくうちに分かったのだが、小西康陽はかなりノリノリでこの曲の制作にあたったようであった。

 

そもそもNegiccoサイドから依頼したというよりは、小西康陽がconnie氏に対して、いつかNegiccoの曲を書かせてほしいと言っていたようである。

 

リリース当時、このシングルのリリースを伝える記事がTOWER RECORDS ONLINEで公開されたのだが、小西康陽によるコメントのテンションがやたらと高い。

 

「家でリピートもうすぐ100回目です。アイドルに曲を書くのが夢だった高校・大学時代の自分に聴かせてやりたいくらいの、〈私の中の筒美京平〉が暴発したような作品です。つーか、コレはロックンロールだ! 破壊力バツグン! ぜひぜひネギネギ、聴いて戴きたく存じます」である。

 

これが素晴らしくないはずがないのである。

 

昨年、Negiccoにハマりかけた頃に、よく仕事場でもかけていたのだが、この曲に対する反応はすこぶるよかった。

 

「どんなに握手をしたって あのコとはデートとかできないのよ」「どんなにお金を積んでも あのコとはキッスとかできないのよ」「ざんねーん!!」という身も蓋もなさ、また、「ふつうの人はCDなんてもう買わなくなった」「アイドルばかり聴いてると だんだんバカになるんだよ」「大人にならなきゃダメじゃない」といったややキツめの自虐、これはアイドル界隈以外の人たちには面白くネタ消費できるところであろう。

 

しかし、この曲がアイドル界隈に属する当事者ににとっても素晴らしいのは、「男の人はオンナのコよりずっとロマンチスト」「夢中になれるものがあると ホントにステキな人生」と、その本質への理解が成されているからではないだろうか。

 

そして、「アイドルばかり聴かないで」と散々言っておきながら、最後に「そんなにアイドルが好きなら じゃあ、Negiccoにしてね」と最高のオチが付けられている。天晴である。

 

この曲のMVはおそらく楽曲の雰囲気に合わせ、あえてモードっぽいメイクやファッションで撮られていると思うのだが、これが私にとっては初めて観た動くNegiccoであった。

 

よって、その後に少しずつしるようになる実像とはややギャップがあったのであった。

 

カップリングはconnieさんによる「新しい恋のうた」で、ピチカート・ファイヴに対するリスペクトに溢れたオマージュにもなっている。

 

 

 

Negicco 2011~2017 -BEST- 2 Negicco 2011~2017 -BEST- 2
3,240円
Amazon