善意の謝礼 | 想像妄想空疎空想うそ日記

善意の謝礼

 住宅地を散歩していたら、金色に光る封筒のようなものが落ちているのを見つけた。

 拾ってみるとそれは封筒ではなく、紙のように薄い金の板だった。何やら読めない文字が浮き彫りになっており、見事な細工が施されている。
 本物の金かどうかは判らないが、大変高価そうなことは確かだ。懐に入れるのも気が引けたので、交番に拾得物として届けておいた。
 数日後、落とし主が見つかったと連絡が来た。

 交番に行くと、指輪やらネックレスやら国籍不明の装身具やらを全身にじゃらじゃらくっつけた、ゲームに出てくる魔法使いのような格好の男がいた。
「いやあ、助かったよ。取引先に注文されて持っていくときに、うっかり落としてしまってね」
 胡散臭さ爆発の見た目に似合わず、気さくな口調で男は言った。

「お礼を一割あげなきゃな。じゃあこれ」
 彼は懐から一枚の短冊を取り出した。「財布に入れとけば、きっといいことがあるよ」
 後日、雑談しているときに友人にその話をした。
「ああ、そいつ多分、駅前の占い師だな。副業でお札作ったり呪いかけたりしてるらしいぞ」
「本当かよ」
「それが、知り合いでお前みたいにフダ拾った奴がいてな。そいつの場合は呪い札だったんだが、がめつい奴でさあ。一割よこせって迫ったらしいんだよ。ひどい風邪ひいて大変だったってさ」
「へえ……」
 その時、齧っていたアイスの棒に文字が見えた。「お、当たりだ」言ってから、ふと気が付いて財布に入れていた例の短冊を出してみた。最初より文字が薄くなっている……。
 慌てて宝くじ売り場に行って、たまたま出ていたスクラッチくじを購入した。お金を払うと、短冊の文字がすうっと薄れて消えていった。
 急いでごしごし擦ったら、五万円が当たっていた。ああ、当たり付きアイスなんか買わなきゃよかった。
 とすると、拾ったあのお札は少なくともこの十倍以上のご利益があるわけだ。それにしてもこれだけ実力があるなら、あんな胡散臭い格好しなきゃいいのに。