昨日消えた男 マキノ雅弘監督 昭和16年 | 三条河原町のブログ

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昭和30年ぐらいまでの娯楽日本映画は、
普通の人たちの生活を実感させてくれる
タイムトンネルです。


ともかく文句なしにこの映画は楽しい。 最後のお白州での裁きは、長屋の全員そろってのお祭騒ぎ・・・と、考えた方がおもしろい。特に長谷川一夫と山田五十鈴の軽妙な言葉のキャッチボールが最高。本当に息の合った二人です。「鶴八鶴次郎」に続き、「喧嘩鷹」、「蛇姫様」、そしてこの「昨日消えた男」です。

二人とも生き生きしていて本当に楽しそうです。

「文さん、あんたにそれだけの度胸があったらね。あたしだって少しは、見直してあげてもいいんだけど・・・」

「あれっ! しょってますね! じょうだんいぅねぃ!! おはおり芸者に見直されて喜ぶほど、まだ落ちぶれてはいませんよっ!」

「あれっ、ちょぃと! ふん、人様の前ばかり、大きな口たたいて・・・ばくちに負けて帰ってきた時、 ちょっと、すまねぇが、小粒だけでもかしてくれって? そのしがねぇ、はおり芸者に頼むのは、どこのご大身の若様だったかね!」

口で負けそうになると、

「おいおいおい! 人ぎきのわりぃこというねぃ! 女ってどうしてこんなバカにできているんだろう。 女賢しくして牛売りそこなう、女子と小人は養い難し、阿呆の名、汝の名は女なり!」

「やい! 文こう! 文せき! 馬鹿野郎!」 そしてお互いにあっかんべー。

こんなやりとりの連続です。そして、長屋で織りなされる人間模様と殺人事件と岡っ引き。

長谷川演じる文吉とは大家に対しても岡っ引きに対しても軽口を叩き、与力のお調べ中にもちゃちゃを入れるおしゃべり野郎。文吉にちょっときついことを言われるとすぐに病気のおっかさんに泣きつく山田の小富ネイサン。

長谷川一夫も山田五十鈴も、気持ちよさそうにぱんぱんと言い合いあかんべーを繰り返す。天下の二枚目同士がやってくれるんですから、こんなに楽しいことってありません。

長谷川も山田も後年の重みやもったいぶったところが全くなく、軽いったらありゃしない。それでいて、いなせで、色っぽいんですから。

さすがマキノ監督、いいですね。これが、昭和16年のお正月映画ですよ!