「出せと、言われても今は無理」

「根こそぎこの店ぶっ壊してもいいんだぞ」

代表の目が本気モードで俺達にやれと今すぐにでも命令を出しそうな雰囲気で光る。


無理ですって!

せいぜいテーブルと椅子を壊す程度しかできません。


「今ここにいないんだって、いないものは出せないでしょう」

ドカッと丸テーブルの前の椅子に腰をすえた代表は納得してない表情であたりを見渡してる。

レーダービームを発して壁の向こう側を見通してるような気合を感じる。

もしかして特殊能力あり?


「卵がナなくなっちゃって、つくしが外に買い物に行ってくれてるの」

「そんなことに牧野をこき使ってるのか?」

ここで男性の相手をしてるつくし様を見るより健全な気がします。

まずは接待してるところに代表が見なくて良かった。


見知らぬ男性のオムライスに名前とハートをケチャプでにっこりと書いてるつくし様を見られた日には、この店はゴジラの襲撃を受けた残骸になると思う。


「ただいま」

カランと音をたてて開くドア。


「暑いのに荷物させてしまってすいません」

「当たり前だろう、つくしちゃんに重いもの持たせられないよ」

デレッとした顔で答える男。

ぼさぼさの髪の毛にチエックのシャツ。

背中には黒色のリュックを背負った男。

見た目の冴えない男が彼女が目当てだと明らかな態度。

両手には卵のパックがいくつもいったビニール袋を提げてる。


もう・・・

代表を見れない。


「ちょうどご主人様に会っちゃっ・・・て・・・」

明るく言いかけた声が店の一角を見つめて固まった。


クルリと向きを変えて背中を向ける。

「逃げんじゃねェよ」

グサッ!

確かに鋭利な槍が背中から胸に突き抜けたのが見えた。


「誰がご主人様だ」

「お前のご主人様は俺だろう」

冷気が盛り上がってだんだんと距離を縮める。



「なんでここにいるの」

そう言ってチラリと俺達に向けられて視線。


なんでしゃべったの!

無言で責める視線。

俺達のせいじゃありませんて!

代表に知られたくないのは俺達が一番です!



「見届けてやるよ」

「えっ?」

つくし様の声に思わずのっかって代表を見る。


「この二人にオムライス食べさせたんだろう?俺も同じの」

「同じって・・・」

「ハートとか書いたってやつ。相葉や千葉に食べさせて俺に食べさせられない訳ねェよな」

それ以上の迫力で脅さないでほしいと切に願う。


「あのさ、滋ちゃんも作れるんだけど」

「お前のはいらねェ」

滋さまの顔も見ずに冷たくあしらう代表。


「それじゃさ、つくしの作ったオムライスに私が書くハート」

「私が作ったオムライスにつくしが書くハートだったらどっちがいい?」

「どっちがいいって決まってるだろうがぁ。全部こいつに作らせろ」

思案する時間は0,1秒もかかってない即答。


「無理、だってうちの料理のシステムがそうなってるんだもん」

「滋、お前本当に店を営業させ無くするぞ」

「司さ、つくしを返さなきゃどうせ店をつぶすつもりでしょ」

うわ~。

にらみ合いの中になんとなく面白い雰囲気が織り込まれてる。

不思議な感覚。

不機嫌悪魔と悪戯天使のにらみ合い。


「両方持って来い」

「だから両方はダメだって」

「一つは千葉に食わせるから文句ねェだろう」

それって・・・

どちらを食べても俺は代表の恨みをかうんじゃないんですか?


断れるものなら断りたい。

出来れば相葉先輩を指名してほしかった。

先輩!

笑ってないで助けてくださいよ!



目の前に出された二つのオムライス。

右がつくし様の作ったオムライスで左のオムライスが滋様が作った奴。


俺の前に出てきたオムライスの上につくし様がケチャプを絞る手つきで構える。

震えてた指先が決心したように力を入れるように動く。


「ちょっと待ってください」

何の試案もないのに思わず止めたのは本能。


「おい」

「はい」

威圧感満載の声がこの短い言葉にどれだけの威力を持たせられるのだろう。

心臓が凍る。


「お前の卵を俺のと入れ替えろ」

あっ・・・

なるほど!

即座に言われた通りにスプーンとフォークを使って卵を剥いで代表の入れ替える。


「これなら文句ねェよね」

「司、ずるくない?」

滋さまの声が笑ってる。

俺、本当に命が助かった。



「つくし、こうなれば、徳大の熱いハート書いてやれば。そのケチャプ全部使い切っていいから」

「全部つかったら何が何だか分かんなくなるわよ」

慣れた手つきでつくし様が代表の卵に描くハート。

その横には可愛い感じのイラスト。

髪の毛のクルクル具合はどう見ても代表。



「よし、私のハートを書く権限もつくしに譲っちゃう」

この人は何を言い出すつもりなんだ!

助かった命がまた危険なサメの泳ぐ海に投げ出された気分。


「俺、何もいりませんから」

ガツガツとすばやくオムライスをスプーンで突き刺してすばやく口に運んだ。

数口で食べきる勢い。



「お前、ほかの奴にもこんなの書いてたのか」

怒りを鎮めるどころか火に油を注いだ様な熱の上昇。


「千葉、お前・・・それ食べたんだよな?」

「吐き出せ!」

立ち上がった勢いのままに首を絞め上げられた。