「何やってる?」
「ほら、これ、覚えてる?」
つくしの小さな手のひらに収まる小さなクツ。

「司が買ってきたんだったよね」
「駿が立ったってメールしたそのすぐ後にね」
つくしが愛しそうに眺める駿のファーストシューズ。
「まだとってあったのか」
信号で偶然止まった車の窓から見えたウインドウ。
目に留まった小さなクツ。
初めて履く靴はどんなのがいいのかテンで分からずに、一番小さいのから数サイズを両腕一杯に持ち込んでレジに向かった俺。
山積の靴と俺とを交互に見比べた店員があっけにとられた顔で「贈り物ですか?」と尋ねてきた。

抱えきれない紙袋を一つ一つ開けながらだんだんと真ん丸となるつくしの瞳。
「いったい、私に何人子供産ませるつもりよ」
ケラケラと笑った明るい声にどうしようもなく照れくさくなったことを覚えてる。

「駿、もう慣れたかな?」
俺から外れた視線は庭先より遠くを見つめてる。

「駿じゃなくて、お前の方がさびしくなってきたわけか」
「英徳に行かないってことに賛成したのってお前だよな」
「それはそれで駿が選んだことだもん」
「私なんて大学まで親と一緒だったんだけどな」
小さな華奢な身体がますます小さくなって頼りげない。

「まだ二人いるだろう」
「それはそうなんだけど、特別なんだよね」
「何が?」
「駿は何もかもが初めてで、不安や悩みがいっぱいあったからね」

寝返りもハイハイもつかまり立ちも独り歩きもオリンピックで金メダルを取ったみたいな感動と喜び。
目を開けた!泣いた!笑った! 言葉をしゃべった!
当たり前の成長に大騒ぎしてたよな。
確かに舞や翼より感動は駿の方が大きかったように思える。
慣れるって事は愛情とはまた別の次元。

「ご飯食べてるかな?」
心配する次元が低くねェか?

「あ~ いま、バカにした」
「高校の息子の心配がそれってあほらしくないか?」
ククッと零れる笑みを我慢するつもりもない。

「会いに行こうと思えばいつでも行けるだろう」
「それじゃ親離れにならないでしょう」
ぷくっと膨れた頬。

「お前の方が子離れ出来てないだろう」
「司は心配じゃないの?」
非難するような視線が見つめる。

「全然」
お前の実家にいて、内緒でSPもつけてる。

「うそ」
「うそじゃねぇよ」
「駿から連絡があったんだから」
まさか・・・もうばれたのか?

「SP」
分らない様に護衛しろって条件付けたんだぞ!

「私より、そっちの方がよっぽど心配してるよね」
茶化す様な表情が鼻先に近づく。

「お互いだろ」
つくしの身体を抱き寄せて胸元に抱きしめる。
触れあうのを拒むように胸の前には駿のファーストシューズ。
それがつぶれるのをかばう様につくしは両手でしっかりと包み込んでる。
その腕は俺の背中に回すもんだろう。

「いい雰囲気を邪魔されるよな」
「えっ?」
「子供たちに・・・」
キョトンとなった顔がすぐに口元をほころばさせる。

「そうだね」
テーブルの上に小さい靴を置いて自由になったつくしの腕が俺の首筋に抱きついた。


このお話は本館でコメントいただいたおかゆ様のリクエストにお応えしました。


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拍手コメント返礼
らんらん様
子供の成長がうれしさから寂しさに変わる時期って有りますよね。
新ヒロインの名前にも参加ありがとうございました。

ち**様
この二人はいつまでたっても変わらないですよね。
傍で見てる子供たちにとってはどうなんだろう?
ラブラブ気味に両親を毎日見てるのって・・・(^_^;)

あさみ様
男の子の成長ってまた娘とは違うんでしょうね。