「ふるさと納税」について、その本義に立ち返れば一番明快なのは以下のようなものでしょう。税収の地方への移転、郷土への思い、自治意識の向上といったことであれば、本来以下の2つで良いはずです。

① 他の自治体に寄付(ふるさと納税)した分は、すべて居住地の住民税から全額控除する。
② 「記念品」はなし。

 まず、①だと恐らく一部の地方自治体の長から激しい反対が出るでしょう。②だと、そもそも今ほどの動きにならないのでしょう。

 しかし、①については、所得税控除という国の負担がないとやれない「ふるさと納税」というのは変な感じがします。仮に「ふるさと納税」の政策目的として国としてゲタを履かせることまでをも含むというのであれば、こんなまどろっこしいことをせず地方交付税を上積めばいいだけです。そうではなくて、これは一種の自治体間競争だと見るのであれば、そういう競争は自治体間でやるべきものであって、国からゲタを履かせてもらう必要はありません。

 ②については、「記念品」がないと生起しない、(ふるさと納税を通じた)郷土への思いとか、自治意識というのが如何なるものかという議論があるでしょう。今、ネット上で百花繚乱の「ふるさと納税商品リスト」を見ていると、「2000円の負担で10000円の商品を貰おう」的なものが非常に多く、制度の本義から遠ざかっているような気がします。ただし、これは自治体の政策判断ですから、最終的に「記念品」を出すかどうかは自治体判断でいいと私も思います。

 仮に①の方針だけでやってみてはどうなるかを考えてみました。つまり、国からのゲタなしで、ガチで地方間競争をやってもらうということです。言い換えれば、地方自治体間に(記念品なしの状態において)完全なゼロ・サム・ゲームを求めるということです(これだと地方全体での税収は、記念品なしの状態で完全にプラス・マイナス・ゼロ、記念品ありの状態だとマイナスです。)。これだと、純粋にタダで商品が貰えるという夢のような制度になります。

 2000円は最低負担がある場合は、ゼロ・サム・ゲームではなくて、最低負担分だけプラス・サム・ゲームとなり、記念品の出方次第ではもしかしたらマイナス・サム・ゲームに転ずるかもしれません。ここは現在と同じです。

 ここからは予想ですが、完全ゼロ・サムでスタートする場合であっても、暫くは「記念品」による「ふるさと納税」呼び込み競争が続くでしょう。すぐに完全なマイナス・サム・ゲームになり、個別最適を求めた結果、全体がどんどん最適から遠ざかっていくということになります。最低負担を求める場合は、すべてのアクターの行動はあまり現在と変化はありませんが、国のゲタがない分だけ居住地自治体の負担がグンと増してきます。

 そして、いずれにせよ疲弊した一部地方自治体側から「もう止めてくれ」と要望が出てくるような気がします。完全ゼロ・サムの場合はすぐに制度が破綻するでしょうし、最低負担を求める場合であっても、中長期的に「あまりの税の流出負担に耐えられない」という自治体が出てくると思います。

 かなり意地の悪いエントリーですけどね。ただ、国がゲタを履かせないと恐らくは上手く行かない制度だという事は留意すべきことです。