最近、TPP関係はあまり書いていませんでしたが、それなりに交渉が進んでいるようです。そんな中、こんな記事 を見ました。


 気になったのは後半部分。与党の責任者が、フロマン通商代表に「今の制度の下でアメリカ産のコメや小麦を大量に輸入している。今より自由化を進めてしまうと、他国のコメ、小麦が入ってきてアメリカ産が売れなくなる。」というような内容の事を伝えたようです。


 こういうアプローチが私はあまり好きではありませんが、ただ、戦略としてこういうプレゼンをするのはありだと思います。ただし、こういうやり取りをしたことを外向きにメディアに対して言うのは上手くないですね。2つの視点からダメです。


 まず一つ目は、「今、日本は国際法違反をやっています。」ということを高らかに宣言しているのです。今のコメや小麦の輸入体制は、農林水産省による一元輸入(国家貿易)という形式です。細かいことは書きませんが、現在の通商ルールの中では、国家貿易は商業的考慮のみに基づいて行うとなっています。


 しかし、ここで与党責任者が言っていることは、「今の日本の輸入体制は、おたくを事実上優遇している。」ということでして、商業的考慮のみには基づいていないことを言っています。現在の通商ルールの中では、完全にアウトです。誰か指摘してあげた方がいいと思いますね。


 まあ、とはいえ、これ自体は比較的マイナーなことですのでが、もっと深刻なのは「それを公に言ってしまうと、実際にそういうアプローチが取りにくくなる。」ということです。


 アメリカという国は、(実際にはかなり違いますけども)「自由貿易」を標榜している国です。その基本的な理念系のところは何処まで言っても外さないでしょう。実際、記事にもある通り、下院議員とのやり取りでは「すべての関税撤廃」を求められています。


 そういう中、表向きに「今の関税割当枠の中で、あれこれと操作していく方がおたくにとって有利。」と言われても、表向きに「そりゃ、いいですね。」なんて言えるはずもないのです。むしろ、日本側がそういう思惑を持っていることが明らかになる中、それに乗ろうとすると、アメリカの交渉担当者は心の中では「そうかもしれないな。」とは思いつつも、国内の自由貿易派からの批判にさらされる以上難しいでしょう。ましてや、会談後、日本が表で内容を披露してしまわれては尚更です。


 こういう話は「裏」でやるものなのです。表で「フロマンにガツンと言ってやった。」的な手柄にすべきものではありません。


 多分、農林水産省辺りから受けたブリーフで、そういう話があったのだと思います。この話は通商ルールの世界にいる者からすると当たり前のことなのですけども、初めて聞いてみると「へぇ」という印象を受けるでしょう。ちょっと「通」になった気分になれます。そして、そういう通ネタを、対アメリカで披見したくなったのでしょう。


 「裏」でやればいいというと、秘密交渉を促しているようでお叱りを受けそうですが、何でもかんでも公開すればいいというものでもありません。この手の「自由化を制限する中で、おたくに有利な条件を確保する。」的なやり取りは、交渉の裏でガシッと握りに行き、最後の最後で「こうなってしまいました。」ということにしておくのが一番いいのです。


 国内向けに「私はガツンと言ってますよ。」というサインを送りながら、国際的には「国際法違反」を高らかに宣言し、かつ、交渉実務上もそのアプローチを取りにくくする・・・、何処に国益を見出しているのかとセンスを疑いたくなります。