【今日の内容は過度にテクニカルです。関心のない方にはとても苦痛だと思います。】


(要旨)

・ 今後の自由貿易交渉では、上手くセーフガードを使うべき。

・ 関税ゼロでセーフガードを設けるのは、法的な考え方では「関税ゼロ」にカウントされるので、「高い関税撤廃率」という要件を満たしやすくなる。


(本文)

 日豪EPAが纏まり、牛肉の関税が下がってきます。その際にセーフガードを設けています。これについて、日本農業新聞が「事実上の関税割当」と書いていました。とても良い指摘です。最近の日本農業新聞の、自由貿易関連の記事はレベルが上がっています。このテーマのように「通(つう)すぎ」るものまであります。JAの新聞ですから一定のバイアスが入ることを意識して読む限り、とても充実しています。


 セーフガードというのは、「自由化するのだけども、その結果、輸入量が急増したら関税率を上げますよ。」というものです。今でも、通常の牛肉の輸入については38.5%ですが、一定の条件を満たすと50%まで上げられることになっています。それと同様のことを今回日豪での関税下げについても適用しようということです。


 関税割当というのは、「限定的に自由化するけど、一定数量以上の輸入は高い関税を課しますよ。」というものです。考え方としては「自由化限定」のツールです。今、日本には色々な農産品や工業品の関税割当があります(ココ )。


 「自由化のための例外ツール」、「自由化限定のためのツール」、そもそもの考え方は違います。しかし、上記説明でも分かっていただけるように、セーフガードで制度を上手く設計できれば、事実上の関税割当的に使えます。そこを喝破した日本農業新聞はなかなかの慧眼だと思います。


 昔、WTO担当の時、「関税をゼロにした上で、一定量以上の輸入についてはセーフガードを設けるのは、関税ゼロにカウントしていいか。」、「関税割当で関税ゼロ輸入枠を設けた上で、一定量以上の数量には高い関税を掛けるのは、関税ゼロにカウントしていいか。」という法解釈上の議論をしたことがあります。最終的な結論は、前者の問いはYesでして、後者の問いはNoでした。意外に思われるかもしれませんが、法的な視点からはそうなるのです。


 今回の牛肉は関税ゼロではありませんので、ちょっとスコープがずれますけど、今後の自由化で上手くセーフガードを関税割当的に使えるところまで行ければ、少なくとも「高い関税撤廃率」という部分でのお化粧はやりやすいでしょう。脱法?、いえいえ正当な手法です。


 この業界、「見た目」を良くすることも時折重要なことがありましてですね。EUなんか得意ですよ、憎らしいくらいに(笑)。