ある地元の友人とやり取りをしていて、「ロシアがフランスに注文してたミストラル級揚陸艦には要注意だ。」と指摘がありました。ウクライナ情勢に伴う対ロシア制裁の一環として、同揚陸艦売却停止が入ってくるかどうかです。ファビウス外相は「可能性の検討」くらいで留めています。


 2009年頃、グルジア紛争の際の黒海艦隊の輸送能力不足を痛感したロシアが、ミストラル級強襲揚陸艦の導入を検討し、2011年に契約を交わしました。しかし、ロシアはミストラル級を北方艦隊と太平洋艦隊に配備する意向もあるようで、日本の防衛とも無関係ではありません。


 さて、ル・モンド記事 を読んでいると、フランスはこの期に及んでまだ「売りたい」と思っている節があります。以下、同記事を踏まえて書いていきます。


 ル・ドリアン国防相は、「この問題は(実際に配備される)10月になって問われるものである。」とか、「この船は武装されているものではなく、ロシアに到着した後に(ロシアが武器を配して)軍艦として使われるものである。」とマスコミで言っています。言葉の端々から、出来れば契約通りやりたいというニュアンスが伝わってきます。これに対して、ロシアは「契約に基づく権利を最後まで追求する」と応じているようです。


 ロシアは、フランスに対して2011年にヘリ搭載型の強襲揚陸艦2隻を注文しました。金額は11億2000万ユーロ。ロワール・アトランティック地方のサン・ナゼールで、フランスの企業DNCSが建設中です。この契約には、2億2000万ユーロ相当の技術移転に加え、ロシア軍への研修も含まれています。


 2隻の名前は、それぞれウラジオストックとセバストポル(皮肉ですが)。ウラジオストックについては、既に昨年夏には組み立てが終わっていて、今年の3月には進水も行われました。今年末にはロシアに引き渡される予定になっていました。セバストポルについては、2016年末の引き渡しが予定されていました。


 手続き上は、今年10月の武器輸出に関する省庁間会合で実際に引き渡すかどうかが決定されることになっています(普通はここで異論が出ることはありません。)。


 ミストラル級強襲揚陸艦は、その複数機能性から「スイス・ナイフ」と呼ばれているらしく、指揮能力、輸送能力、病院機能等を兼ね備えています。現時点でこの能力を持つ船を持っていないロシアからすれば、喉から手が出るほど欲しいと思っているはずです。フランスの専門家は、「そもそもロシアにこの能力を持つ船を作るだけの造船所がない。」と言っています。また、ミストラル級強襲揚陸艦にはSENIT-9(Systeme d'Exploitation Navale des Informations Tactiques)と言われる戦術情報処理装置や、高度なレーダー機能が搭載されており、これもロシアが保有していないものです。


 この契約そのものが、NATOでは批判の対象になりました。特に東欧諸国は、その能力の高さから、地域のパワーバランスを変更するものであると、当時から批判していたそうです。


 他方、この契約でフランスは1000人の雇用を維持しているという事もあり、仮にこの契約が止まってしまった時の雇用問題というのがあります。逆にロシアはそこを突いており、ロゴジン露副首相は「(契約停止の可能性を口にしている)ファビウス仏外相は、どの程度の雇用が失われるのかご存じないようだ。」と言っています。


 また、仮に契約停止ということになると契約不履行の保証を国費で補わなくてはならず、ル・モンド紙の情報では「10億ユーロ近い違約金が国庫負担となる」そうです。


 ファビウス外相は「ロシアの立ち振る舞いを見れば、このままミストラル級強襲揚陸艦の引き渡しを行える状況にはない。」と言いつつも、「かといって、雇用や経済の問題もある。」と悩ましそうです。冒頭書きましたが、ル・ドリアン国防相は「10月の省庁間会合で決める問題だ。」と言い、恐らくはそれまで決定を先延ばしにして、その時の事態を見た上で決めたいという感じがありありです。


 そして、ル・モンド紙にも指摘があり、かつ私の友人も指摘していたことですが、仮にロシアに売れない場合は、別に売り先を探す必要があると書いてあります。ル・モンド紙には「この手の船は、潜水艦や空母を得るよりも売り先を見つけるのは簡単だ。例えば、人道用という名目であれば関心を持つ国はたくさんあるだろう。それだけの予算があることが条件だが。」という専門家の発言を引用しています。


 ここからは私の友人の受け売りですが、中国が関心持たないかな、ということが気になります。巧みな彼等ですから、既に中国関係者がフランス軍関係者にコンタクトしていても不思議ではありません。あまり良い解がありませんが、下手に中国に売られるくらいなら、日本が買うとかあり得ませんかね(私はミストラル級強襲揚陸艦が海自の既存のラインアップとどう整合的なのかということがさっぱり分かりませんので、単純な議論しかできませんが。)。


 大半がル・モンド紙の意訳でしたが、なかなか日本でこういう話を聞くこともないでしょうから、あえてご紹介しました。