【以下はFBに書いたものを加筆して転記しています。】


 安倍総理のアフリカ訪問は、ちょっと注目度が低いですね。コートジボワールでは、安倍杯という柔道大会の件だけが大きく取り上げられていました。仕方ないのかなと思いますけども、同行記者はもっと勉強して、多面的な記事や報道をすべきです。


 そんな中、かなり驚いたことがありました。それは、コートジボワール訪問時に西アフリカの11の首脳が集まったことです。西アフリカには15ヶ国からなるECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)という組織がありまして、今はコートジボワールのウアタラ大統領が議長を務めています。議長は互選ではありますが、かといってメンバーは加盟国の持ち回りではありません。比較的、大国ナイジェリアの大統領が議長を務めていることが多いです。


 形としては、議長がメンバー国に声を掛けたということになっていますが、別にECOWAS首脳会合をやったわけではありません。ウワタラ大統領が、日本の総理が来るということで特別に声掛けをしたわけです。ベナン、ブルキナ・ファソ、ガンビア、ガーナ、リベリア、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴにコートジボワールを加えて11ヶ国です。自国に来てくれるわけでもない域外の首脳に会いに、他国まで足を運ぶというのは、プライドが許さなさそうな大統領が何人か含まれています(彼らは一緒くたに扱われるのを嫌がります。)。よく11ヶ国も、気難しく、気位の高いアフリカの大統領を結集させたものだと感心します。日本外交にとっては、かなりの得点です。胡錦涛や習近平のアフリカ訪問でこんなことあったっけなと記憶を手繰りたくなります。


 ここからは私の推測になりますが、今回のコートジボワール訪問時の西アフリカ首脳結集は、外務省の岡村善文アフリカ部長が八面六臂で頑張ったことを窺わせます。アフリカ部長は、外務省でアフリカ外交の最高責任者です。岡村部長は、元コートジボワール大使でして、大使在任中にコートジボワールでの内戦を経験しています。


 2010年、コートジボワールでは大統領選挙がありました。人気のなかった現職のバボ大統領を、ウアタラ候補が破ったのですけども、バボ大統領はウアタラに選挙違反があったと主張して居座ったのです。国際社会は総じてウアタラに好意的でしたけど、一時的に二重権力状態による内戦になりました。最終的には国際的な介入等によって、バボは逮捕されて国際刑事裁判所に送致されています。


 その過程で、コートジボワールの日本大使公邸がバボ側部隊に襲われて、岡村大使はかなりの時間、大使公邸に軟禁状態になったということがありました。最終的には、仏軍によって救出されたわけですけど、結構厳しい経験をしています(映像はココ )。そして、ウアタラ大統領が正式に大統領に就任した後、コートジボワールに帰任しています(帰任後の大統領表敬の映像はココ )。


 この過程で、ウアタラ大統領と岡村大使の間に良い人間関係が出来ているというのは、上記引用の表敬時の映像を見ていただければ分かると思います。今回のコートジボワール訪問時、ウアタラ大統領が西アフリカの首脳に声を掛けてくれた背景にはこの人脈がかなり生きていると思います。


 ちなみに、岡村さんは2008年に最年少大使としてコートジボワール大使に任命されました。このエントリー の後半にも書きましたが、「大使経験者が本省での幹部をやるべし」という森元総理のイニシァティブで、年次の若い方がアフリカの大使に任命されました。その一人が岡村大使でした。


 こうやって見てみると、先見の明と先行投資が生きてるなと思います。若手を大使に出して、その後東京で幹部クラスをやらせるという人事政策が当たった良い例です。最年少大使として大使を派遣したこと、大使在任中に任地コートジボワールで内戦があったこと、そこで普通にはない人脈が出来たこと、その大使が現在アフリカ部長をやっていること、ウアタラ大統領がECOWAS議長をやっていること、それらをパズルとして組み合わせて、一つの外交的成果に結び付けたという点で、今回は先行投資をきちんと回収するだけの知恵があったということでしょう。


 実は、私も現職時にある外務省政務三役に「自民党がやっていたみたいに、外務省で少し年次の若い方を、将来の局長含みで大使で出すべき。絶対に将来、財産として生きますから。」と力説したことがあります。結論から言うと、関心すら持っていただけませんでした。なので、言うのを止めました。なお、昨年比較的年次の若い方が、課長からひとっ飛びでエチオピア大使(私の8期先輩)、イラク大使(私の10期先輩)に任命されました。将来の本省局長含みでしょう。


 官僚を上手く使うための政治主導とは、こういう事を言うのだと思います。役所に徒手空拳で乗り込んで、怒鳴り付けるだけ怒鳴り付けて、成果を残せないような唾棄すべき大臣は要りません。