イラン大統領選が大詰めです。私が外務省でイラン担当の課で課長補佐をやっていた時代はハタミ大統領の頃でした。その後、アフマディネジャード時代を経て、新たなイランという国の顔が選ばれます。改革派と言われたハタミ大統領、そしてイラン社会の中にはボンヤリとした改革への期待感が満ち溢れていましたが、やはりあの国は保守派が厳然たる力を持っているのだということをその後事あるごとに思い知らされたという感じです。


 最近の細かいことは分からないのですが、イランの政治をちょっと俯瞰してみていると、「ラフサンジャニ元大統領が立候補者から弾かれて、改革派のアレフ元第一副大統領と一緒にロウハニを推す」という構図自体が結構「変なの」という感じに見えます。幾つかの新聞を見ていると、ラフサンジャニは改革派に近いかのような書き方さえされています。現実的な方ではありますが、そこまで改革派かと聞かれると違和感がありますし、ロウハニ候補についても「改革派・・・とまでは言えなかったですよね」という記憶があります。


 ちょっとここで話が飛びますが、私は第3共和政時代(第二次世界大戦前)のフランスをちょっと思い出しました。政治学的にみると、この時代の大きな傾向としては、左派勢力としてスタートした政党・政治家がどんどん右派に押しやられていくというのがありました。何故かというと、より急進的な左派政党が産まれていくので、結果として既存の左派が右に押しやられていくのです。第3共和政の最後の方になると「radical(急進)」という名の着いた右派政党みたいなものがあったくらいです。当時(も今も)、フランスの政治の中には左派的な思想が強い基盤を持っていることが背景にあります。


 これと全く正反対の方向の力学がイラン政治の中に緩やかではあるものの、存在しているんじゃないかなという気がしてきました。つまり、どんどん保守派側から「より保守的な」勢力・政治家が出てくるため、それまでは比較的保守だと思われていた人物が結果として(本人の意思とは関係なく)改革派の方向に押し出されていくように見えてならないのです。ロウハニ候補が「報道の自由、よりリベラルな大学改革」を訴えていると聞くと、「結構、改革派の方に押し出されてしまいましたね」としか言いようがありません。


 報道を見ていると、改革派や現実派から推されたロウハニ候補がトップ、保守系のガリバフ・テヘラン市長が二番手、強面のジャリリ候補やヴェラヤティ候補は遅れを取っているということのようです。保守系が大同団結すればかなり巻き返せるでしょう。第二回投票まで行けば、そういう可能性が出てくるように思います。ただ、現時点ではロウハニ大統領誕生の可能性がかなりあるような気がしますけど、イラン大統領選はハタミの時も、アフマディネジャードの時も下馬評通りではなかったということがありますので要注意です。


 まあ、改革派の方に押し出されたかどうかは、実際に政権について政策を見てみないといけません。ただ、選挙で改革派に推されたというのは事実ですから、仮にロウハニが大統領になればそれなりに改革派色が出てくるでしょう。根っこのところでは穏健保守派、しかし政策のところで相当に改革派にも気配りをしなくてはならない、だけども、ハメネイ最高指導者を頂点として、色々な権力装置の中核にいる保守派を怒らせてしまっては何もできない、そんな姿を想像します。


 この「極左」又は「極右」のところに強い勢力がいて、そこからどんどん新しい人材・勢力が排出されてくるがあまり、既存の勢力が逆側に押しやられていく構図、日本で見ている限りはあまり顕著ではないと思います。