安倍総理がTPP参加を表明しました。あの会見自体はあれでいいと思いますが、一つだけ「ちょっと、それはないだろう」と思わせる部分がありました。


 それは「農林水産業で3兆円の損失」の部分です。あれは「即時関税撤廃し、かつ何ら対策を講じない場合」という前提で弾き出したものです。総理も「極めて単純化された前提」といった趣旨の話を付け加えていました。


 私が違和感を持ったのは「総理にそれを言わせちゃいかんだろう」ということなのです。総理に数字を出させておいて、その数字について総理に言い訳をさせる、役所としては絶対にやってはならないことです。しかも、日米首脳会談で「すべての関税の撤廃を交渉時に求めるものではない」というような言質を取り付けての交渉入りなのですから、そういう極端な前提を置いた試算を出すこと自体がお役所しての嗜みとしてはおかしいのです。


 仮にそういう数字をどうしても国内対策上出したいということであれば、色々なバラエティを出すべきなのです。「(私は無理だと思いますが)自民党が求めるセンシティブ品目を守りきった場合」、「コメのみを除外した場合」、「国内対策を打った場合」・・・、色々なバラエティを出しながら説明するのが本当は筋論です。


 あの数字だけを総理に渡すということについては、内部的に相当な議論があっただろうと思います。私は内閣官房がもっと頑張って、担当省庁に「こんなものだけを出してくるんじゃない。総理に恥をかかせる気か。」と厳しく叱りつけるべきではなかったかと思います。


 昔からそうでした。現職時代、TPP交渉の議論をしていた際、担当省庁からは「関税を全部撤廃して、それをすべて補助金で埋めた場合」という極端な前提の下、たしか、損失は「8兆円」と言ってきたことがありました。「もっとバラエティのある試算を持ってこい」と言ったら、副大臣が出てきて「出せません」と回答してきました。そういう中、我が盟友、茨城の福島伸享議員(TPPに対するポジションは違いますが、とても良い議論をする大好きな論客です)が一生懸命頑張って試算を出してきたことがありました。その時の担当省庁の目線は結構冷たかったですね。


 ああいう、総理に恥をかかせるような数字を出して、そして、説明の時は「あくまでもこういう前提の下に出した試算です」としれっと言う、そういうのはルール違反です。しかも、一度「3兆円」という数字が走り始めれば、それがスタートラインになることを知ってやっているわけです。


 「いかがなものかね」と思います、本当に。