TPPに交渉参加することが決まりました。大体、このエントリー にも書いたとおり、私の予想通りです。色々な懸念はありますが、真摯に日本の国益を守りつつ交渉を進めてほしいと切に願います。


 ところで、今の自由貿易協定をめぐる動きを見ていると、「まあ、これで二周回遅れが周回遅れくらいかな。」というのが私の感想です。あまり韓国の動きに左右されてはいけないとのお叱りもあるでしょうが、韓国は既に韓米、韓EUのFTAを終えています。交渉開始ではなく、終結、発効しているのです。そして、韓中FTA交渉も相当に事務的に進んできているようです。


 韓国の思惑は「日本よりも早く」、これを強く感じます。日本がボケボケしている間に、いち早く主要国とのFTAを終えて、それらの国に自国の産業の足場を確保するということを国策としてやっています。ここまで、その政策は功を奏しているように見えます。


 日本ではTPPばかりが注目されますが、これは「one of them」でしかありません。あくまでも環太平洋地域での自由貿易協定です。私はこういう時だからこそ、対EU、対中国での自由貿易協定を戦略的に進めていく次の一歩を踏み出すべきだと思います。EUはそろそろ始まりそうな雰囲気がありますので、それを加速するということでしょう。TPPばかりが注目されていて、EUはそれほどでもありませんが、対EUのFTAがTPPよりも交渉が楽だなんてことは全くありません。「EUは農業分野で脆弱性があるので、農業分野では分かりあえる」といった根拠なき期待感がありますが、地理的表示の保護( )みたいな分野では相当に押してくるでしょうし、鉄道関係での政府調達でも相当にしつこいでしょう。日本がセンシティブだとしている農産品の具体的品目として分かりやすいのは、デンマークの豚肉ですかね。繰り返しますが、TPPよりEUの方が楽だなんてことはまず期待しない方がいいでしょう。


 そして、中国。日中韓でFTAをやろうという動きがありますが、韓国ははっきりと「韓中が先。日中韓はその後。」と言っています。その思いは「中国との関係で足場を先に作りたい。それが終わったら、少しゆとりを持って日本を仲間に入れてやろう。」、それくらいの感じです。何故、日本は日中韓のFTAにあんなにプライオリティを置いているのかがさっぱり分かりません。それは韓国が首を縦に振らない限り動かないプロセスであり、今はノン・スターターです。それをボケボケ待っているのではなく、日中FTAに進むべきです。勿論、日中FTAがTPPや対EUよりも楽だということはまずないでしょう。


 私はWTOを昔担当していたので、今でも「自由貿易はWTOで全世界で進めていくべき」との強い思いがあります。ただ、それは今動いていません。次善の策として、FTA網を充実させていかざるを得ません。アメリカもTPPと同時に、米EUのFTAに動き始めています。TPPと対EUを競争させながらやっていくのかもしれません。


 そういう世界のダイナミズムの中で、今回のTPP交渉開始はその一歩でしかありません。今こそ対EU、対中国で交渉を始めることを考えるべきです。多分、日本がTPPに参加することは、EUや中国の政策当局者にも少なからず影響を与えていることでしょう。成長が鈍化しているとはいえ、日本は世界第三位の経済大国です。その市場をどう見るかということを彼らも考えているでしょう。上手くその思いを利用しながら、多面的に物事を進める思考がほしいところです。