今日はちょっとセンシティブな内容です。あくまでも頭の体操的なものであり、私が中国側主張に与しているということでは一切ないという前提で書き進めて行きます。


 尖閣諸島に対する中国の主張に対する外務省の書類を幾つか見ました(ココ )。それを見ていて、中国の主張の依って立つところが今一つ安定していないのを感じました。幾つかの主張がごちゃ混ぜになっているような気がするのです。なお、以下の主張は相互排他的ではありませんが、すべてが整合的に成立しうるものではありません。


1. 歴史的に中国の領土である。

2. そもそも、1895年の併合は日清戦争に乗じたものであり、根源的に受け入れられない。下関条約も植民地支配の不平等条約の最たるものである。

3. 尖閣諸島は台湾の一部である。

4. 中国はサンフランシスコ平和条約の締約国ではなく、一切拘束されない(注:これは明示的には言っていませんが、時折そういう認識なんだろうかなと思わせる主張があります。)。


 1.は根拠のないことですが、2.と一緒になると、台湾+尖閣諸島を日本が支配していた事実自体がそもそも無効といった主張に繋がりやすいです。これは本当に根拠のないことなのですが、植民地から独立した途上国向けには一定の効果を持つ可能性があります。この旧植民地諸国のアンチ宗主国感情に訴えるやり方にはとても注意が必要です。


 3.は下関条約で清が日本に割譲した台湾及び澎湖諸島に含まれ、サンフランシスコ平和条約で日本が放棄した台湾及び澎湖諸島に尖閣諸島が含まれるという主張とセットになってやってきます。竹島について、韓国が「日本が放棄した領土として竹島(独島)は書いてないけど、当然含まれる。」と(全く史実に反する)主張をしているのと似ています。ただ、これは地理的、歴史的にも間違っています。もっと言うと、それを主張すると1945-1972の間、アメリカが施政権を尖閣諸島に行使していた事実を否定しなくてはならなくなります。サンフランシスコ平和条約第3条によって、アメリカは尖閣諸島を含む沖縄への施政権を行使しており、それらの島が1972年の沖縄返還条約で返還されたことに、中国がチャレンジしてきていると見ることもできます。


【参考:サンフランシスコ平和条約第2条】

(b) 日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。


【参考:同条約第3条】

 日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。


【参考:沖縄返還協定第1条】

2 この協定の適用上、「琉球諸島及び大東諸島」とは、行政、立法及び司法上のすべての権力を行使する権利が日本国との平和条約第三条の規定に基づいてアメリカ合衆国に与えられたすべての領土及び領水のうち、そのような権利が千九百五十三年十二月二十四日及び千九百六十八年四月五日に日本国とアメリカ合衆国との間に署名された奄美群島に関する協定並びに南方諸島及びその他の諸島に関する協定に従ってすでに日本国に返還された部分を除いた部分をいう。


 4.なのですが、中国がそもそも論としてサンフランシスコ平和条約自体を認めていないという可能性もあります。中国が日本との国交正常化の際の復交三原則の中で(中華民国との)日華平和条約の無効を主張したことにかんがみれば、そういう思いを持っているかもしれません。まず交渉に参加していませんし、当時のソ連を始めとする幾つかの国は中華人民共和国が交渉に加わっていないことを理由に、最終的にこの条約を締結していないという歴史的事実もあります。3.と4.は完全に背馳するわけではありませんが、3.はサンフランシスコ平和条約を前提とした主張と馴染みやすいです。このサンフランシスコ平和条約を中国としてどう見ているのかというのがよく分からなくなることがあります。


 上記でも1.と2.が重なり合った主張について書きましたが、これに4.が加わって、そもそも尖閣諸島は中国のものであり、ずっと現在に至るまで中国のものであって、歴史的に起こった日本の支配やアメリカの施政権はすべて根源的に無効であると思っているのかもしれません。


 いずれにせよ、中国がどの主張をするにせよ、1945-72までの間、アメリカが施政権を行使していた事実には何処かでチャレンジする必要があります。そこをもっとクローズアップして、サンフランシスコ平和条約の締結国に対して、「この条約に完全に反する主張をしている」ということを多面的に訴えて行くというのは、論理的に通じやすいように思います。


 頭の整理がまだ悪いのでちょっと上手く書けませんでしたが、中国の主張は時折「何でもかんでもごちゃ混ぜだ」という感じを持っています。そして、個別の主張に応じて、日本の対応は変わります。多分、論者によって言っていることが違うだけなのかもしれません。あまり中国が何を考えているかをこちらが忖度しすぎる必要はありませんが、少し整理してみる必要があるのかなと思います。