国際法の世界にはちょっとした特殊なお作法がありまして、何が義務的規定で、何がそうでないかというのを見分ける術というのが決まっています。英語で「shall」で書いてあるものは義務的規定です。そして、「may」はいわゆる「できる規定」でして、やってもやらなくても問題ありません。


 ここまでであれば簡単です。しかし、ここには更に特殊なお作法がありまして「shall」でも逃げ道があります。例えば、以下のような文句が入っている時は「義務的規定をそうでなくする裏技」になります(他にもあります)。


・ endeavour

・ make efforts

・ where appropriate

・ within the applicable laws and regulations


 「shall endeavour」とか「shall make efforts」なんて規定は一見義務規定ですけども、努力する義務ですから、努力した結果が確保されていなければならないわけではありません。「where appropriate」は「適当な場合には」と訳しますけど、その「適当」かどうかを判断するのは条約の締約国でして、適当でないと判断して物事をやらなくていいということが含意されます。「within the applicable laws and regulations」は分かりにくいですが、現時点で適用可能な法と規則の範囲でのみ義務的規定を負うということは、つまりは何ら国内法制度を変える必要はないということを意味しており、結果として「やれる範囲でやればいい」ということになります。


 私は外務省時代、最後の1年半を条約課というところで過ごしましたので、こういう典型的な文言を見ると「ああ、ここは義務的ではないのだな」ということが文章の隙間から匂ってきます。ただ、これはいわゆる条約マフィアの世界でありまして、「そもそも何が義務なのか」からスタートして最後の逃げ道のところまですべてを理解してもらうのがなかなか難しいのです。ただ、ここを理解せずに条約を読むと変なことになるというのも事実です。


 次回エントリーで、具体的な例を書いていきたいと思います。