最近、立て続けに北九州市や福岡市の市議会議員の方から「うちの街は臨時財政対策債ということで起債しているのですが、あれって本当に大丈夫なのですか。」と聞かれました。私も昔から同じ問題意識を持っています。


 簡単に言えば、「本当は交付税の現ナマのかたちでお金を国から地方にお渡ししたいけど、今はお金がないからとりあえず地方で起債してください。元利払いを100%、後年度に交付税措置しますから。」という約束の下で自治体が起債しているものです。国から「これだけは臨時財政対策債ということで起債していいですよ。」という枠を貰って、それで地方が借金をしているのです。地方自治体的には、すべての起債の内「これは臨時財政対策細分、これは一般会計分」ということで区分して経理しているはずですが、別にそんな区分が地方債に明記してあるわけではありません。


 後年度に100%交付税措置されるというのは事実です。したがって、地方側からすると「自分達の負担となる地方債ではない」と認識され、国から貰った枠の上限パンパンまで起債している自治体は結構多いです。しかし、よく考えれば分かるのですが、交付税の総額はここ数年を見ていても大して増えてはいません。むしろ、トレンドは減少傾向です。臨時財政対策債の後年度交付税措置というのも、交付税全体の中に溶け込んでいるわけでして、その分はたしかに100%措置されるとしても、その額の分だけ何処かで他の交付税が削られていることになっていくはずです。何が削られているかというのは簡単には分からないようになっていて、交付税の算定根拠の数字を微妙にいじることで交付税全体の額のつじつまを合わせているということになります。


 そうやって考えると、たしかに100%交付税措置されていても、結局のところはその分が通常の交付税のところに食い込んでくるかたちになるはずです。結局、臨時財政対策債自体は100%措置されているけども、臨時財政対策債の起債額がどんどん積み上がっていくと、結果としては償還額が交付税総額を圧迫して、自治体財政の圧迫に繋がっているのではないかなと思うわけです。


 そもそも、臨時財政対策債は地方債であって、自治体の起債の額そのものは増えるわけですから、そのこと自体が本当に適当なのかということは問われて然るべきだと思います。地方自治体の議員の方が行政当局に聞くと、必ず「いや、うちの負担じゃないですから」という一言でかわされてしまいますけども、「本当にそれでいいのか」という問題意識を持っていただける議員の方が増えていくことは、私はとても健全な発想だと思います。この臨時財政対策債は、国による交付税措置を背景に生じるモラルハザードの最たるものです。モラルハザードが生じている時、その末路はろくなものにはなりません。


 そういう風に言うと、「現ナマで来る分が少ないのだから仕方ないではないか。臨時財政対策債を立てないと、他の自治体が起債する以上、うちの自治体だけが損をするではないか。」という反論があると思います。それはそれで正しいです。多分、国全体のことを考えて、臨財債を立てないという選択肢は地方自治体にはないのだろうということも分かります。特定の地方自治体に「国全体のことを考えて、臨時財政対策債を控えよう」なんてのは、財政のきつい自治体行政当局から一笑に付されることは明らかです。そこが辛いところです。


 いずれにせよ、臨時財政対策債は既に35兆円近く積み上がっています。これは自治体のバランスシートに乗っているものであって、国から見ると「100%交付税措置する」という法的な約束によって、その自治体のバランスシートをカバーしていることになります。償還額が膨れあがり、しかし交付税総額は増えない、その時に何が起こるのか・・・、すべての地方自治体行政の方に影響するテーマです。