あまり、世論を煽るようなことはしたくないのですが、昨今の世論の中で「実は違うんだよな、それ」と思っていることをあえて書いておきます。


 昨今、色々なかたちで外国人による土地取得についての議論が喧しいです。その中には「例えば、森林の取得を禁止すべき」というような論陣を張る方がいます。気持ちはとてもよく分かります。ただですね、これはそんなに簡単ではないのです。一例として、韓国との関係を挙げながら説明したいと思います。韓国を挙げたのは、単に「条約の構成上、一番分かりやすいから」であって、それ以外の特段の意図はないことを予め明記しておきます。


 「日韓投資協定 」という条約があります。ザクッと言うと、両国間の投資において内国民待遇と最恵国待遇を実現していこうという条約です。ただし、これには附属書で例外を両国とも列挙しています。附属書はⅠとⅡがあって、Ⅰは「例外+新規の制限を設けることも可能」、Ⅱは「例外+新規の制限を設けることは不可」ということです。


 その例外の中で、韓国は「外国人による土地取得」を完全に外しています。日本に内国民待遇も最恵国待遇も認めていませんし、更には新たに規制措置を設けることもOKです(附属書Ⅰ)。つまり、日本人は韓国での土地投資を自由に行うことはできず、更には、韓国が他国により優位な条件を与えることも認めており、かつ、それが今後厳しくなることも可能ということです。


 逆に日本ですが、「外国人による土地取得」はそもそも例外にしていません。「農林水産業に関連する一次産業」は例外になっており、現行の差別的な措置は維持できるようになっていますが、新たに規制強化することが認められないようになっています(附属書Ⅱ)。その結果、何が起こるかということなのですが、今の日本の規制において外国人が森林所有することを直接規制する法律はないので、結局、韓国人の方が日本の森林に対して投資をすることはこの投資協定によって保護されているということになります。


 つまり、ものすごくかいつまんでザックリ言えば、日本人は韓国の森林を自由には買えないけど、韓国人は日本の森林を自由に買えるというのが現状です。したがって、現状では「外国人による森林の取得を禁止すべき」という国内法を作るためには、この条約の改正交渉が必要ということになります。そんな投資協定を日本は多くの国と締結しています。そして、普通は条約の改正交渉ではGive and Takeですから規制強化のためには、別のところで何かアメを出す必要があるでしょう。しかも、これは国会承認条約ですから、すべて条約改正交渉+国会審議が必要ということになります。膨大に過ぎる手続きが必要になり、正直なところ、新規立法(あるいは現行法改正)がすぐには視野に入ってきません。


 これは自民党政権(小泉総理)の下で締結された条約ですが、私はそのことを以て同党を殊更批判するつもりもありません。色々な交渉経緯があったことでしょうから。


 今日、書きたかったのは単に「これが現実だ」ということに過ぎません。