昨今、不動産業界の方々の間で非常に話題になっている「賃借人の居住の安定を確保するための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取り立て行為の規制等に関する法律案」というものがあります。この法律案は、昨年の通常国会で参議院を通過し(参議院先議)、先の臨時国会で審議される予定だったのですが、問責等々で止まってしまい、今通常国会で衆議院に送付されてくる予定と聞いています。関係者から色々と聞き取りをしました。折角私だけで情報を持っていても仕方のないことですので、ここでご紹介しておきます。なお、聞き取りと個人の意見が入り乱れており、かつ、その仕分けを(あえて意図的に)していない点はご容赦ください。また、ここで書いていることのみを鵜呑みにして今後の法解釈をされませんよう、くれぐれも念押しをさせていただきます。


 背景としては、賃貸住宅の賃借で債務保証サービス(概ね家賃1ヶ月分の保証料)を利用する人が現在4割に登っていることがあります。例えば、外国人等連帯保証人を取るのが難しい方々はこういったサービスを利用せざるを得ないでしょう。こういったサービスを行う業者さんがいることは大家さんのリスク軽減というメリットもあるはずです。その一方で、このようなサービスを提供する業者によるトラブルが増えています。最近ではテレビでも取り上げられていますが、鍵の交換、悪質な取り立て、深夜にわたる度重なる電話等です。きちんとサービス提供をしている業者が大半なのだと思いますが、中には最初から保証する意図が全くなく、事前求償権を盾に滞納の可能性がありそうだという段階で追い出しにかかる業者も少なくないそうです。


 現在、この債務保証サービスについては法的規制がない状態です。行政としては良質なサービスを提供する健全な業界を育成していく観点から今次法律案を提示しているということです。特に暴力団排除は大きな目的ですよね。そういった観点から、今次法律では「家賃債務保証業」という業種の義務的登録制度を設けています。暴力団の使用(求償権の譲渡)、虚偽広告、誇大広告等が明示的に禁じらています。


 それに加えて、今次法律案では「悪質な賃借人対策」と「悪質な取り立て対策」がセットで規定されています。

 まず、「悪質な賃借人対策」ですけども、たしかに賃借人の中には悪質な滞納をする人がいて、これらの方に出て行ってもらおうとすると通常の裁判手続きでは概ね1年くらいかかります。空き物件が増えていること等からも分かるように、不動産を巡る需給バランスが昨今、需要者優位になっていて、ともかく入居してもらったけど、その方が悪質な滞納をしている、しかし、借地借家法で借家人の権利が守られていることがあって手続きに時間がかかる・・・、そんな感じです。ただ、法務省は借地借家法の改正には頑なに反対しているそうでして、そういう中、「やれることをやる」というので出てきたのが「弁済情報のデータベース化」です。


 悪質な賃借人を入居させてしまったら負けみたいな状況を作らないように、弁済情報をデータベース化して、事前にそういう方の入居を拒みたいということになるわけですが、現在はこのデータベースについての規制がありません。個人情報保護法さえ満たしていれば足りるようでして、例えば差別につながるようなものをデータベースから排除することが難しいということになります(国籍、障がいの有無等)。そういうことで、今回の法律にはこのデータベースについての規制が盛り込まれています。


 このデータベースは「ブラックリスト」だと反対する向きもあるのですが、私はデータベースの中身次第ではないかと思います。差別に繋がるような情報はダメでしょうし、賃借人への情報開示、秘密保持義務等の規制をきちんとかければ上手く機能するように思います。今次法律案ではデータベース業者を登録制にして、かつ、データベースに関する業務規程に対して作成・届出を義務づけているということなので、行政がまずは業務規程レベルでチェックをし、その後も警察等と協力してきちんと目を光らせて変な使い方をしないようにすることが大切です。


 「悪質な取り立て対策」については、法律案第61条が分かりやすいです。


【法律案第六十一条】

家賃債務保証業者その他の家賃債務を保証することを業として行う者若しくは賃貸住宅を賃貸する事業を行う者若しくはこれらの者の家賃関連債権(家賃債務に係る債権、家賃債務の保証により有することとなる求償権に基づく債権若しくは家賃債務の弁済により賃借人に代位して取得する債権またはこれらに係る保証債務に係る債権をいう。以下この条及び第六十三条において同じ。)を譲り受けた者又はこれらの者から家賃関連債権の取立てを受託した者は、家賃関連債権の取立てをするに当たって、面会、文書の送付、はり紙、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような行動をしてはならない。

一 賃貸住宅の出入口の戸の施錠装置の交換又は当該施錠装置の解錠ができないようにするための器具の取付けその他の方法により、賃借人が当該賃貸住宅に立ち入ることができない状態とすること。

二 賃貸住宅から衣類、寝具、家具、電気機械器具その他の物品を持ち出し、及び保管すること(当該物品を持ち出す際に、賃借人又はその同居人から同意を得た場合を除く。)。

三 社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として国土交通省令・内閣府令で定める時間帯に、当該時間帯以外の時間帯に連絡することが困難な事情その他の正当な理由がある場合を除き、賃借人若しくは保証人を訪問し、又は賃借人若しくは保証人に電話をかけて、当該賃借人又は保証人から訪問し又は電話をかけることを拒まれたにもかかわらず、その後当該時間帯に連続して、訪問し又は電話をかけること。

四 賃借人又は保証人に対し、前三号のいずれか(保証人にあっては、前号)に掲げる言動をすることを告げること。


 非常に微妙な書き方をしてある法律でして、私から見ても「本当に大丈夫か?」と思いたくなる部分があります。特に業界の皆様から反発が出ているのは以下の2点です。

 まずは、この規定に対する違反については指導とかいったプロセスを経ずにすぐに罰則になる(直罰規定)ということがあるので、個人の零細不動産業者を除外すべきではないかという指摘があります。これはたしかに悩ましいことですが、個人業者についても悪質なケースが報告されていますので、零細事業者だったら除外というのは適当でないと思います。違反行為があるからといって警察が乗り込んでいったら、零細業者だったから手出しできないという状況は看過できないでしょう。

 もう一つは、法案第61条にある「威迫」という表現が曖昧だというご批判です。本来は「いれずみを見せながら家賃支払いを求める」みたいなものを対象としているわけです。「威迫」というのは脅迫ではカバーできない縁辺を指す概念で、他の法令でも結構使われています。この
「威迫」の判断基準は「社会通念」によるわけでして、例えば単なる支払いを求める電話のみをもってして、主観的に「自分は威迫を受けた」と主張することはできないというのが普通の法律の解釈です。


 ただ、このあたりは、参議院の審議の際も相当に指摘があり、採決の際の付帯決議で以下のようなことが述べられています。


【付帯決議 五】

家賃関連債権の取立てに関する行為規制については、民間賃貸住宅の大半を占める個人大家を始めとする債権者の正当な家賃の取立てが阻害されることのないよう、ガイドライン等の運用基準において客観的・具体的に明確化し、関係者に対してその周知徹底に万全を期すとともに、規制の運用に当たっては、指導・監督も含め、適切な対応を行うこと。


 その通りだと思います。よく警察等とも相談しながら、法律成立後に策定する通達(ガイドライン)等でどういう行為が禁じられるのかということを明確にしていかなくてはなりません。


 たしかに、すべての限界事例を法文上細かく規定し尽くすことが難しく、「威迫」とか「その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害する」といった一般的な表現を使っているのでしょう。法の細かいスキマを縫ってのいたちごっこをすることは適当ではないと思います。ただ、例えば22:00以降にしか電話連絡が付かない人間に取り立ての電話をしたら「うるさい、こんな電話に二度と電話してくるな。」と切られ、他の連絡方法がないので、後日また電話したら「何度も連続して電話してくるな。法律違反だぞ。」と凄まれた時はどうすればいいのか、という限界事例に対して業界団体の方は疑問を持っているわけですから、その不安に応えていく必要は当然です。


 この法律、これからが衆議院にかかってきます。私は国土交通委員ではありませんので、直接の審議に関わることはありません。ただ、地元で伺う声を何処かできちんと発していかなくてはいけないと思っているところです。