EPA・FTAに関する交渉が久しぶりに政治の前面に出てきています。APEC議長国ということがあるため、例えばアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)や、非常に高レベルの自由貿易協定を締結しようとする環太平洋経済連携協定(TPP)についての立場を固めていく必要があるということでしょう。


 FTAAPというのはAPEC内で議論がスタートしたものですので、たしかにAPEC議長国が立場を明確にしないというのはありません。これまでの立場を調べてみたら、「我が国はFTAAP構想の将来像やこれに至るあり得べき道筋に関する議論をリードしていく。」みたいな、どうでもいいコメントばかりが見つかりました。若干トートロジー的になるのですけども、こんなコメントに留まる国に議論がリードできるはずがありません。


 TPPについては、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドで発効しています。また、オーストラリア、ペルー、アメリカ、ベトナムが参加を表明し交渉が行われています。基本的に例外、除外なしに2015年までにすべての関税撤廃と貿易自由化を目指したものです。マレーシア、コロンビア、カナダも参戦してくるようです(交渉に入るには上記の8ヶ国のコンセンサスが必要。単なる冷やかしでの参加はダメということなんでしょう。)。


 FTAやEPA交渉への参加について議論をすると、必ず出るのが「日本はこれからどういう国の姿を目指すのかをまず考えるべき。モノを売って、貿易で生きていく国なのか、それとも資産を持って、その運用益で生きていく国なのか。前者であればFTAは必要だが、後者であれば投資分野の自由化が優先事項でFTAは最優先ではないはず。」という議論です。


 まあ、私はこの手の議論は「するためにする」議論であって全く意味がないと思います。日本の産業構造を見た時に、仮に貿易でカネを稼ぐ比重を政策的に下げ、資産による金融立国で生きていく選択をするとしましょう。その時、とてつもない強烈な構造改革を日本は経験しなくてはならないでしょう。しかし、この手の議論をする人は総じてその覚悟はありません。もっと筋が悪いのが、別の思惑(保護主義)を偽装するために、この一見知的な議論を始める人達です。国会の中には一定程度います。


 いずれにしたって、日本は貿易面で激しい競争に身を投じなくてはならないのです。それから逃げようとしても、この世の中で風雨を避ける術はありません。そこから目を背ければ背けるほど、日本は安楽死への道を歩みます。その分を金融資産の運用で稼げるかというと、まず無理でしょう。素直にそう考えた方がいいでしょうね。


 ということで、FTA・EPAについてはどんどん交渉に参加すればいいと思います。そこで重要なのは「折り合えなければ止める」ということです。当たり前のことなのですが、どうも日本はそのあたりがとてもとてもナイーブです。そもそも論として、日本はオーストラリアとFTA交渉を始めているのです。日本が弱いと言われる農業分野で、オーストラリアほど条件が厳しい国はありません。あの国と交渉が開始できるのなら、どの国とだって交渉を開始するくらいのことはできます。


 今、某党がFTAやEPAで交渉を始めようとすると農家を煽って騒ぎますが、私に言わせればただの「確信犯的放火魔」です。うちの党の上もなんで「だって、オーストラリアと交渉やれるなら何処とだってやれますよ。あれ始めたの誰ですか?」と反論しないのかが不思議でなりません。同様に農家に向かって「交渉はどんどんやります。けども、妥結しないこともあります。我々を信頼してください。」というキャンペーンをやればいいでしょう。


 何とも当たり前過ぎるくらい当たり前のことを書きました。