伊藤忠の丹羽さんが、新駐中国日本大使になるらしいです。一般論としては良いことだと思います。


 実は8年くらい前に外務省が叩かれた際、政治サイドから「G8の大使ポストを一つ、外務官僚以外の人に出せ」と圧力が掛かり、結果としてイタリア大使ポストを非外務官僚に出したことがありました。労働次官経験者が来ました。多分、外務省的には「G8で出すなら・・・、やっぱりイタリアかな」という相場観があったのでしょう。しかしながら、その後、その慣行はなくなりました。「のど元を過ぎれば・・・」の世界なのかもしれません。似たようなものとして、外務次官は大使に転出しないというルールを作りました。そちらのルールは、最高裁判事だったり、大学教授だったりに転出しており、これまで何とかルール遵守はされているようです。


 私は大使ポストは外務官僚だけでなく、多くの有為な人材に開放されるべきだと思います。国の大小にかかわらず、開放されることは別に悪いことではありません。外務省に行くと、時折「一種採用されることは大使になれる将来を確保したということだ」みたいな話を聞かされました。ダメな一種採用職員をたくさん見た身からすると大きな勘違いだと断じたいのですが、実態はその通りになっています。そういうダメで緩い一種採用職員にカツを入れるためにも、外部から有為な人材を入れて、緊張感を与えることは大切なことです。


 内部だけで回すと、時折「え゙っ」と思いたくなるような大使人事が行われることがあります。今のG8に派遣されている大使の中にも、「おいおい、この人はないだろうよ」と思いたくなるような人が複数名いますし、北東アジア情勢に鑑みた時、「この人をこんな重要ポストに就けるか?」と任命権者の見識を疑うような人事もあります。馴れ合いともたれ合いが生じやすい現在のシステムには、外から刺激と衝撃を与える必要があります。


 そういう前提の下で、幾つか留保を書いておきます。


● なかなか有為な人材は来てくれない。

 大使の給料は、平均給与に比べれば遙かに高いですが、民間企業のトップクラスでバリバリ働いている方からすれば、1/3~1/5くらいの減給になることが多いです。そこまで給料が下がってでも、お国のために粉骨砕身働きたいと思うかというと、なかなか難しいのです。そうすると、他省庁の官僚、学者みたいな方がどうしても多くなり、民間企業の一線級の人は来てくれないのです。丹羽さんの中国大使は本当に例外的なケースと言っていいでしょう。


● 大使の仕事は(国によっては)結構ハード

 ヒマしている大使が比較的多い中、主要国の大使ポストというのはかなりキツいです。日本の代表として、あちこちに呼ばれ、時には地方にも出て、政務もこなし・・・、となると、それは掛け値なしにハードです。給与水準が下がる割には、前職よりも拘束時間は長いとなると、これまた来たくなくなるのかもしれません。


● 外部から来た大使にも赤点クラスはいた。

 勿論、名指しはしませんが、非外務官僚で鳴り物入りで来た大使だったのに、言葉ができない、任国に馴染まない、東京の政情にばかり関心を持つ、といった理由で、評点を付けると「赤点」になる方が一定数いました。特に政治主導で決まった人に、そういう傾向が強かったように思います。常に外部から新しい血を入れれば上手くいくわけではないということです。最後は、出自にかかわらず「人材」なんだろうと感じます。


 まあ、何はともあれ、駐中国大使に丹羽さんがなることは良いことです。外務省チャイナスクールは平然を装いつつも、内心戦々恐々としていることでしょう。丹羽新大使の活躍を心から祈念するばかりです。