報道によるとシーシェパードによる捕鯨船団への妨害行為を受け、トーゴ政府が同団体の抗議船「ボブ・バーカー号」の船籍を剥奪したそうです。別の抗議船「スティーブ・アーウィン号」が旗国としているオランダ政府は船籍の剥奪を可能にする船籍法改正案を議会に提出しているようです。第二昭南丸を攻撃していたアディギル号は破壊され、南極海に放置されているそうです。


 なお、あのアディ・ギル号は詳しい方によると、かなり革新的なトリマラン・ボートなのだそうです。資金の豊富さを物語っていますね。


 いずれにせよ、これは結構大きな動きでして、かなりシーシェパードの活動範囲に制限が出るでしょう。オランダが手を引けば、もはやシーシェパードに船籍を与える国はそれ程いないと思います。


 では、国際法上、船籍を持たない船の扱いはどうなるのかを見ていきたいと思います。これは比較的単純です。


【国連海洋法条約第110条(臨検の権利)】

1   条約上の権限に基づいて行われる干渉行為によるものを除くほか、公海において第95条及び第96条の規定に基づいて完全な免除を与えられている船舶以外の外国船舶に遭遇した軍艦が当該外国船舶を臨検することは、次のいずれかのことを疑うに足りる十分な根拠がない限り、正当と認められない。
a 当該外国船舶が海賊行為を行っていること。
(略)

d 当該外国船舶が国籍を有していないこと。

(略)
2   軍艦は、1に規定する場合において、当該外国船舶がその旗を掲げる権利を確認することができる。このため、当該軍艦は、疑いがある当該外国船舶に対し士官の指揮の下にボートを派遣することができる。文書を検閲した後もなお疑いがあるときは、軍艦は、その船舶内において更に検査を行うことができるが、その検査は、できる限り慎重に行わなければならない。
3   疑いに根拠がないことが証明され、かつ、臨検を受けた外国船舶が疑いを正当とするいかなる行為も行っていなかった場合には、当該外国船舶は、被った損失又は損害に対する補償を受ける。
(略)

5   1から3までの規定は、政府の公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできるその他の船舶又は航空機で正当な権限を有するものについても準用する。


 あれこれと書いてありますが、単純に言えば無国籍船は誰にも保護されないということです。自衛隊、海上保安庁の船舶や航空機で臨検することができるようになるわけです。


 ちょっと、ここで思ったのが、「なんで国籍を持ってないことが悪いんだろう?」ということです。実は国連海洋法条約には「すべての船舶は国籍を持たなくてはならない」という規定はありません。国家間の規律なので、そこまで律することはできないのです。ただ、国連海洋法条約の中には、暗に「国籍を有しないことが悪いことなのだ」という前提があります。国籍を有しないことが既に「疑い」の対象になり、それを臨検することは問題ないわけです。


 で、更にこれを国内法でどうするのかなということを考えました。今の海賊対処法では対処できないようです。最近、予算委でシーシェパードの件を公明党の石田議員が提起していましたが、岡田外相とのやり取りを聞いていると、やはりシーシェパードの行為はなかなか海賊行為と定義しにくいようです。


 となると、単に無国籍だというだけでは、国連海洋法条約で認められる臨検をする権限は自衛隊にも、海上保安庁にも与えられていないわけです。やはり、攻撃があったら、それに刑法等を適用するしかないのか、という結論になります。これを法律の不備とするかどうかは、まだ悩ましいところがありますが、シーシェパードが追い詰められてきているので、もう少し踏み込んで法整備をしてもいいかもしれません。今のままですと、単に「保護されない」という状態になるだけでして、あまりシーシェパードへの抑止力は働かないような気もします(そもそも、トーゴは完全に便宜置籍船国としての役割しか有していなかったでしょうから。)。


 これからの日本の対応としては、まずはシーシェパードを引き受ける国が出ないようにすることです。在外公館が世界中に徹底的にアンテナを張って、内陸国を含めて、シーシェパードの船の旗国にならないようにすることです。まあ、無国籍船だからと言ってあまり抑止力にはならないような面もあるのですが、まずはそこからです。そこから先の日本としての法整備については、私なりに考えてみたいと思います。