年頭に際し、2つの外交テーマについて、私のいい加減な見通しを書いておきます。一本目はアフガン情勢です。・・・と言っても、これまで何度か書いているので、その延長線上であまり真新しい話はないかもしれません。あと、最近の情勢を細かくフォローしているわけでもないので、非常に直感的な見通しになります。細部に事実認識の誤りがあるかもしれません。


 まあ、今年もタリバーンは着実にアフガニスタンで地盤を広げるのではないかと思います。どう考えてもハミード・カルザイ大統領では統治できない状況になっている上に、タリバーンはパキスタンとの国境周辺地域を後背地として、結構、地方の住民の支持を得ているように思えます。ここが重要なポイントなのです。カルザイ大統領は人気がありません。国際社会の寵児でしたが、それとて、そろそろ賞味期限が切れつつあります。その一方で、やはり田舎に行けばタリバーンは支持があるのです。


 パキスタンは、あまりタリバーンやその支持勢力が勢力を強めてくると、自国内でイスラム主義勢力が過度に伸長してくることに繋がることを懸念する一方、アメリカの片棒を担いで抑圧一辺倒では、今の政権基盤が弱いザルダリ政権はすぐに潰れるでしょう。結局、両方の顔を見ながら収まりのいいところでバランスを取りながらやっていくしかなさそうです。欧米では「パキスタンは実はテロ撲滅に消極的」みたいな論調があります。事実はもっともっと複雑で、パキスタン政府がタリバーンを始めとするイスラム主義勢力に対して強硬策に出ることは、内政上ほぼ不可能なのですね。


 そうすると、パキスタンはアフガニスタンとの国境地帯でタリバーンやイスラム主義勢力が暗躍することを(黙認とは言いませんが)放っておかざるを得ないでしょう。パキスタン内政への悪影響、対米関係の悪化にならない程度のところで上手く安全弁を操作し続けるのがせいぜいだと思います。


 あと。アメリカやNATOがくれぐれも止めておいた方がいいのは、パキスタン国内のタリバーン勢力への空爆です。ともすれば、そういう誘惑に駆られるんだろうと思いますが、それをやったらパキスタン国内は沸騰してしまいます。イスラム主義勢力が勢力を伸張し、あの国全体がガタガタっと行くことすら想定されます。そうやって考えると、パキスタンとアフガニスタンの国境辺りがスカスカな状態であり、そこをパキスタン国内のイスラム主義勢力のバックアップを受けたタリバーンが行き来することはある程度所与の条件とせざるを得ないのではないかと思います(それが良いか、悪いかはともかくとして)。


 では、どうするかですが、私は国際社会はカルザイ大統領を切った方が良いと思います。政権の組み換えをして、もう少し幅広い勢力を取り込んだ方がいいでしょう。望むらくは、イスラム色がもう少し強い人を国家元首に据えた方が上手くいくような気がしてなりません。欧米から見ると「えっ?」と思えてしまうような人であっても、国内の勢力バランスを上手く反映できるような布陣に換えてしまうということですね。今のアフガニスタンには国を纏める共通の価値観がありません。再度王制にするのはもう不可能です。となると、あれだけ人種も信仰も文化も異なる人達の集まりを束ねていくためには、何か共通の価値観が必要になります。それをイスラムに求めようというわけですね。欧米にはウケの悪いアイデアでしょうけど。


 あと、それと同時に、アフガニスタンに関する国際的な枠組みを再構築してはどうかと思います。かつて、タリバーン時代には「6+2」という枠組みがありました。「6」というのは周辺国のパキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、中国で、「2」は米露です。国連等の場で外相会合までやっていました。まあ、これがよく機能していたかどうかと言えば、そうでもなかったのですが、それなりにこういう枠組みでタガが嵌っていた面もありました。私は新しい国際的な枠組みは「6+2+2」でどうかなと思います。上記の「6+2」にインドとサウジアラビアを入れて「6+2+2」です。なんでインドとサウジかというと微妙なのですが、カシミール問題への波及等も考慮してインド、ワッハーブ派のアフガニスタンへの浸透やイスラム全体の盟主としての立場を考慮してのサウジという考え方です。私的にはサウジを上手く巻き込んでいくことが、実はアフガニスタンについては重要だと見えています。


 この枠組みで喧喧囂囂、議論していく枠組みを作り、そこからアフガニスタン問題への解決策を練っていくというのは有意義じゃないかねと、私は考えます。枠組みを作るだけでは物事は前へは進みませんが、今のように何となく政治プロセスが停滞している状況ではタガを嵌めなおす意味合いはあるでしょう。特にアメリカとイランが真正面から協働して、アフガニスタン問題に取り組めるような場を作るだけでも前進ですし。なお、日本や欧州諸国も入りたがるでしょうが、この手のものはあまり枠を大きくするとろくなことがないので、10ヶ国くらいで収めておくのがベストでしょう。


 では、日本は何をしたらいいのかということですが、今後、陸自派遣をかなり真剣に検討した方がいいのではないでしょうか。私は(これまた直感的でいけないのですが)「地雷除去」がいいのではないかなと思っています。理由は(1)需要がある、(2)陸自に能力がある、(3)首都カブール近辺でやれる、まあ、こんなところです。地雷というのは怖いものでして、汚染地域にはとても足を踏み入れようという気になりません。カブール周辺にはかつて群雄割拠の時代、首都争奪を狙うマスード、ヘクマチヤール等、軍閥がポコポコと埋めていったことがあり、かなり埋まっています。私がカブールに行った時も、ちょっとだけ街を外れた地域で道路沿いにある石が赤く塗られているのを見たことがあります。「汚染地域」ということです。ああいうところに出ていくのが良いのではないでしょうか。


 あれこれと思いつきで書きました。新年ということもあり、あまり留保を置かずにパンッと書いたところもあります。批判、異論、あるでしょう。今年も大歓迎です。