東シナ海のガス田問題がひとまず落ち着きました。白樺ガス田への日本企業の参入、翌檜ガス田南部での共同開発、樫、楠両ガス田は継続協議ということみたいです。


 この暫定的な解決について、「どのあたりなのかな」と思って、公式サイトを調べてみました。出てきたのはこれ です。さすがにこれは酷いと思いました。何が何なのか、さっぱり分かりません。日中中間線との関係も、尖閣諸島との関係も、全く分かりません。この発表の仕方自体が、中国への配慮だと言えばそう言えるかもしれません。中間線を書くと、中国側の世論を刺激するということなんでしょうが、それにしても分かりにくいですね。仕方ないので、もうちょっとだけ分かりやすい を拾ってきました。


 私の感想は「上出来」です。よくこれだけ確保できたものだと、交渉に当たった資源エネルギー庁、外務省の方に敬意を表したいです。色々と批判があるのは知っています。白樺ガス田については、中国国内法に基づく資本参加じゃないか、共同開発とは言えないといった主張があることは知っています。中国側が「中国の主権は揺らがない。これは中国の主権を前提にしたものであって、日本は既に参入している外資系企業(ロイヤルダッチシェル等)と同じ立場で参入するだけ。」と説明していることも知っています。私の感じでは、それはそれで言わせとけばいい、うちはうちで解釈があるから、といったところです。お互いが都合のいいように説明できる解決策にするのも外交上の知恵の一つだと思いますから。


 というのも、日本では中間線というのは国際的なルールだという感じで捉えられていますが、この日中のケースでは、日本側が琉球諸島を基線としており、中国側が大陸を基線としていますから、国際司法裁判所に持ち込むと、多分、中間線から少し日本側に寄せられたところでの解決が図られる可能性が高いのですね(つまり、その場合、白樺は完全に中国権益となる。)。そういう可能性がある中、中間線で頑張り通した日本の交渉者はよくやったと言っていいように思います。


 もっと言うと、この手の開発の際には開発の際の準拠法を決める必要があります。決めないのであれば、それについても交渉して、準拠法に代わる白樺開発に関する基本的なルールみたいな国際的ルールを条約として締結する必要があり、それはそれは時間がかかるのです。今回は早期の解決を優先して、準拠法のところでは中国側に譲った、そう考えていいはずです。


 ところで、今回の解決について、ちょっと渋いネタを提供しておきます。今回、共同開発の対象として鉱区設定されたのは翌檜ガス田「南部」です。なんで翌檜ガス田全体ではないかと言うと、これは一部報道されていますが、日韓で設定した大陸棚共同開発地域に当たるからなんですね。翌檜ガス田全体(特に北部地域)を開発してしまうと、日韓の共同開発地域に少しかかってしまう可能性があるのです。特に中川経済産業大臣が主張していた「ストロー理論(掘っているところは共同開発地域内でなくても、共同開発地域の資源が抜き取られる)」が今度は日中と韓国の間で問題になってしまうということです。まあ、中国側からすれば、別に是が非でも共同開発をしたいわけでないし、勝手に日本が韓国との関係を慮って、翌檜北部を日中の共同開発地域から外したいというなら、勝手にどうぞという感じなんでしょう。


 んで、問題はこの日韓の共同開発地域なんです。これは1978年くらいに締結された条約なんですが、

当時は実は大陸棚に関する国際法の主流は「自然延長論(自国の沿岸から地理的に延長している大陸棚に権利を主張できるという論理)」だったんですね。だから、日韓の間ではかなり日本が譲歩して、概ね中間線から沖縄トラフまでが共同開発地域に設定されているのです。これは今、中国が当初主張していた解決策にかなり近いです。地図 で見てみると、上記で書いたことが分かっていただけると思います。その後、国際法の考え方が変化していて、今は二百海里線が重なってる時はまずは中間線をベースに調整していくという論理がメインストリームになっています(ということで、日本は今回そういう論理で頑張り通したのです。)。今、日韓間で交渉すれば全く別の結果になるでしょう。あと20年は効力のある条約ですが、見直しするとなればかなり大変でしょう。今の国際法上の主流だとか、そういった議論が何処まで通用するかはかなり疑問です。見直せば、絶対に今、韓国が有する権益を中間線くらいまで押し返されることになるわけですから。かといって、日本も韓国との大陸棚条約を今のままにしておくと、中国側から「おたくは韓国にだけ自然延長論を認めて、うちには認めないのはおかしい。やっぱり中間線と沖縄トラフの間だけが共同開発地域だ。」と捻じ込まれるでしょう。想像するだけでウンザリするような前途が待ち構えているということなんです。


 ちょっとテクニカルに過ぎました。もうちょっと分かりやすく書けるようになりたいんですけどね。