居酒屋タクシー、そして残業自慢のおじさん達、まあ色々と役所には特殊な事情があるのですが、こういうことが起こる原因の一つに「国会待機」というのがあります。


 国会会期中、お役所では18:00前くらいになると放送が入ります。「明日は●●院●●委員会が開催される予定です。現在、質問入手中ですので次の局課は待機をお願いします。●●課、●●課・・・・。」という感じです。明日の国会で質問が当たるかもしれないから(「当たるから」ではない)残ってなさい、という指示です。18:00の段階では結構広めに残されることが多いです。


 そして、コンタクトが出来た議員に質問取りに随時行きます。関係する複数のお役所が議員の事務所に呼ばれていくことも多く、議員事務所がお役人さんでギッシリ埋まってしまうことも珍しくはありません。あと、役所によっては若手職員を勉強のために質問取りに出すこともあるようですし、そうでないこともあります。


 これ、実はコツがありまして、議員とのやり取り(これを「レク」と呼びます)を通じて、質問の内容を誘導していくのです(なかなか成功しませんが)。複数の省庁に関係しそうな質問の場合は、「ああそれは●●という趣旨でしょうか(ここで誘導する)。それでしたら、当省ではお答えすることが難しく、担当官庁は●●省になります。」みたいな誘導をします。勿論、その振られる役所も同じような誘導をしてきますので結構な押し付け合いのバトルになります。私もかつて経済産業省や農林水産省に豪快に質問を振って押し付けたことがあります。あと、もう一つは上手く質問の内容自体を決め付けていくという技もあります。答弁するのが難しいような内容になると、「先生、今の質問は●●ということでしょうか。それでしたら、答弁は●●みたいな感じになりますが・・・。」と振ってみて、その場で質問の内容と答弁を確定させてしまうのです。これはある程度中身が分かっていないと出来ませんね。


 ちょっと話が飛びましたが、この質問取りをやっている間は、お役所はボケーッと待っていることが多いです。勿論、忙しい部局は質問取り中も通常業務をやっていますが、そこまで忙しいわけではない部局になると本当に「待機」している状態が続きます。


 これは与野党問わず多いのですが、質問が出てくるのが遅い議員というのがいます。ヒドいのになると23:00レク開始みたいな人がいます。そうすると質問が揃って省庁毎の割り振りが決まるのは24:00前くらいになったりします。そうなってしまうと、タクシー帰りになってしまうわけです。仮に24:00に質問と答弁作成部局が決まったとしましょう。全く質問が当たらない部局も出てきます。しかし時既に遅し、タクシー帰りを選択せざるを得ません。国会待機が解除される(質問が全部出切って担当部局が確定する)と、タクシー乗場にドドドッと100人弱が押し寄せるという光景を私も何度か経験しました。それらの方々の残業時間(大半は「待機」しているだけ)とタクシー代はすべて税金です。そういうことが霞ヶ関全体で起こっているのですね。待機だけで一晩数百人なんてことも珍しくはないはずです。「どう考えてもムダだ」と思いますよね。


 ただ、こういうことについて議員側の意識が低いというのも事実です。とある議員と話していた時、「僕はいつも質問出すのが遅いんだよね。夜の会合出て23:00くらいから始めることもザラ。何か悪いの、それで。」と平然と言い切った時には、さすがに首を絞めてやろうかと思いました。たしか、何度か「レク開始時間を統計で取って公開する」という案が国会改革の一環として挙がったことがありましたが、議員側の反対で潰れていった記憶があります。「何か疚しいことでもあるのか?ないのなら公開してよ。早く質問を出させる良い圧力になるから。」と今でも思います。


 お役所には「オレはこんなに残業をしている」と自負するからこそ、幾つかの常識外の行為を許容するところがあります。無尽蔵なタクシーも、天下りも、根底にある意識は「オレは安月給でこんなに無茶働きさせられとる。だから・・・、」ということなんですね。しかし、その残業の一部は、実は「ボケーッと待たされるだけ」だったりするんですね。そういう意味で、公務員制度改革には国会側(の議会運営のあり方)にも責任の一端があるということなのです。


 この質問取りの制度、外部から見ていると「そもそも国会審議を(質問取りなどせずに)ガチンコでやればいいじゃないか」と思う方もいるでしょう。上手く説明できないのですが、それだと潤滑な国会審議が実現しないのです。どの国でもある程度はやっていることです。では、「質問取りの期限を決めておけばいい」という考え方もあります。これは正論なのですが、何となく形骸化するような気がするんですよね。やっぱり、「レク時間の公開」が一番良い圧力になるでしょう。議員側に「早めに質問出さなきゃ、そのことがバレてまずい」という意識を持たせ、自主的に早めの対応を迫ること以外に解決策はないと思います。


 最初は居酒屋タクシーの話から、かなり派生しました。内輪ネタで分かりにくかったかもしれません。お詫びいたします。