最近、バターの品薄感が強くて、スーパーに行くととてつもなく値段が上がっているだけでなく、品物そのものがないという状況になっています。マスコミでは「外国産の高騰、国内生乳生産の減少、国内需要の増大(特に洋菓子)」みたいなことが理由に挙がっています。私はその理由が正しいのかどうかは分かりませんが、仮にその説明が正しいのであれば「それって、農林水産省に問題があるんじゃないの?」という気がしました。以下は過度にテクニカルですので分かりにくいですが、ご関心のある方は読んでみてください。


 まず、バターはどうやって生産され、輸入されているかですが、今、バターや脱脂粉乳というのは「指定乳製品」とされ、GATTウルグアイ・ラウンドの結果、生乳換算で13万7千トンは低関税で輸入することが定めれらています。この部分の関税率が今、35%です。生乳換算で13万7千トン分について、バターで輸入するか、脱脂粉乳で輸入するかは、その時々の農林水産省の判断です。そして、この13万7千トンを超える部分については、関税が29.8%+985円/kgです。これだと今一つ実感がないでしょうが、かなりの高関税になり、平成14年度実績ではたったの131トンしか輸入実績がありません。


(こういう低関税枠を設ける制度を「関税割当」と言います。なお、これはスーパー・テクニカルなのですが、この指定乳製品の関税割当はウルグアイ・ラウンド合意で決められたのですが、関税割当自体はWTO協定の譲許表では譲許していません。譲許表の上では、バターの関税率は29.8%+985円/kgだけで一次税率部分は譲許していません。)


 そして、35%の関税で輸入されている部分については、大半は農畜産業振興機構という独立行政法人が一元的に輸入しており(国家貿易)、事実上の追加関税ともいえるマークアップ(上限が806円/kg)を付けてから市場に流しています。一般の民間ユーザーが35%で輸入しようとすることもできなくはないのですが、それは農林水産省に割当申請をする必要があり、しかも、その用途が沖縄用、見本市用、航空機用(正直私にはこれが何を意味するか分かりませんが)に限定されるということです。つまり、我々の食卓に乗るようなものは、民間ユーザーのための低関税枠では輸入されないということです。


 あれこれ書きましたが、バターの輸入制度については以下のように要約できます。
● 低関税で輸入できる枠がある。
  --- ただ、実際は国内市場には高く販売されていている(国家貿易によるマークアップ)、又は、
  --- 用途が限定的(民間ユーザー輸入分)
● その低関税枠を超える部分については、関税が高いため殆ど輸入できる可能性がない。


 農林水産省の資料を見ていると、あちこちに「安い外国産バターを国内市場には流させませんよ。ガッチリ守ってますからね。」という趣旨のことがあちこちに書いてあります。


 さて、こういう制度がある中、今回の状況はどう見るべきなのでしょうか。まず、国内生乳生産が減少したということなのですが、畜産は予想できない業態ではありますし、家畜を相手にしている以上、やる気になってもすぐに増産できるわけではありません。ただ、今年の生産減については農林水産省の見通しが甘かったと言うこともできます。仮に生産減が明らかになってきているならば、マークアップの水準を下げるとか(これは数量増には繋がりませんが低価格での市場放出という緩和効果がある)、低関税の数量枠を広げるとか、高関税部分の税率を下げるとか、色々やれることはあったはずです。なお、この3つのことはWTO農業協定に全く反しません。


 現在の制度を前提とする限りは、バターの品薄に対する対応策は「国産生乳の生産増」しかありません。しかし、それってすぐには実現しないんじゃないかと思います。そうすると、あり得るのは、まずは指定乳製品の低関税輸入枠をすべて(脱脂粉乳ではなく)バターで使い切ることがあり得ます。ただ、それで対応できるのかどうかは疑問になってしまいます。低関税枠の拡大をするか、それが無理なら高関税枠での輸入が現実的なものとなるよう高関税の水準を劇的に下げることで、数量を確保せざるを得ないんじゃないかと考えてしまうわけです。


 今の生乳の制度は、国内産が競争力がなくて、国産生乳がダブついていることが前提になっています。今は国内産減等によるバターの品薄という、今の制度を作った時に想定されなかった事態が出てきています。そういう時に、過去に設定された既得権益(これ自体が変質している可能性すらある)を守ることを優先するあまり、国内の食卓に大きな負荷を掛けることは正当化されないように思います。


 今のバターの品薄が、すべて農林水産省の政策のせいだと言うつもりはありません。ただ、制度を上手く組んでいたら、今のようにスーパーの棚からバターが消えてしまうところまでは行かなかっただろうと考えられる時に、農林水産省にも責任の一端があろうと思うわけです。