公務員制度改革の中で「お役所と政治家の接触制限」といった点が提起されていました。なかなか渋いテーマですし、しかも、霞ヶ関と永田町という限られた世界の中での話なのでピンと来にくいでしょう。直接関係するのはほんの数千人の人だけです。しかし、これって意外に国政全般に大きな影響を及ぼすテーマなのです。


 この官僚と政治家の接触、今は非常に頻繁です。常識的にはちょっと想像できないくらい、官僚と政治家の接触は行われています。お役所側から「ご説明に上がる」場合もあれば、政治家が官僚を「呼びつける」場合もあります。お役所に勤めていた経験から言えば、こればなくなればお役所の仕事は(部局にもよりますが)3割~5割減るでしょう。


 普通に考えれば、こういう接触制限が実現することをお役所は喜ぶと思うでしょう。実はそう簡単じゃないんですね。この接触制限、お役所も政治家も反対しています。何故か、どちらもこういった接触に権力の源泉を見出しているからだろうと私は思います。


 政治家は、一声吠えれば役所が何でもやってくれると思っている人が結構います。お役所を擁護するつもりもありませんが、その奉仕ぶりは「無制限」とでも言えるくらいです。それを「政治の優位」と勘違いしている政治家のおじさん達は結構います。多分、それが(歪んだかたちの)快感なのでしょう。他愛もないことであっても、呼べば懇切丁寧に説明してくれる、場合によっては利権のごり押しまでやる、そこに権力の源泉があります。


 では、お役所側に政治家との接触にどういうメリットがあるかというと、簡単に言えば「取り込める」ということです。法律や予算について、平場で議論するとゴチャゴチャうるさい政治家を事前に取り込むことができるということです。まあ、これは程度、度合いが常識的な範囲であれば、とても良いことなのですが、日本の場合、官僚に取り込まれてしまう政治家が非常に多くなるということで、弊害が目立つようになっています。上手く説明できていないかもしれませんが、官僚にとっても政治家と自由に接触できることが権力の源泉になっているようなところがあるわけです。


 私のいた外務省はこの手のことがあまり得意ではありませんでした。政治家というのは地元に戻ると「ともかく顔を出す」というのが仕事のようなところがあります。その文化を持って東京に上がってきますので、やはり「顔を出す」ということを重視しているように思えます。そういう文化をよく理解しているお役所は、ともかく用事がなくても、国会の議員会館をいつもウロウロしています。色々な議員の事務所に顔を出して茶でも飲んで雑談をしては馴染みを作る、そして、外部からは絶対に分からない強固な関係を築いていきます。政治家の側もそれを期待しているようなところがあります。ただ、ドライな外務官僚はそういうことをあまりやりません。だから、政治家から人気がないお役所になってしまうわけです。


 国会で予算や法律を審議する際、「与党事前審査制」という事実上の制度が確立しています。これは何かと言うと、与党の部会、政務調査会等で事前に利害関係をすべて調整してしまって、与党全体が賛成するまで内部での審議を行うことです。この過程での、政治家と官僚の接触というのはそれはそれは凄いものがあります。部会で怒鳴りつける、個別に官僚を呼んで怒鳴りつける、自分の利益を押し込む・・・、まあ、そういう裏の世界ですべての利害関係を調整しつくしてしまうわけです。そうしてしまうと、国会審議においては、与党は太鼓持ちの質問しかしませんし、野党がどんなに喧々諤々やっても最後は賛成多数で通っていくということになります。お役所にとっても、その方がありがたいのです。その結果、真の審議は国会ではなく、与党の部会で行われているため、「何故、こういう法律が出来上がってきたのか」という本質のところが見えにくいわけです。


 そうやって、見えないところで強固な政官関係が作られてしまうことが、透明性、ひいては民主主義の根幹を揺るがすところまで来ているという懸念から、この「接触制限」が提案されているということだと思います。私は「制限」というのはなかなか障壁が高いですし、結構窮屈になるんじゃないかと思うわけです。そもそも、ある程度の接触は健全なものと捉えていいでしょう。


 もっと、簡単な方法で今の問題点を解消できるんじゃないかなと感じています。それは「公開する」ことです。別に接触して何を話したかなんて事をすべて公開する必要はありません。単に「●月●日、○○課長が○○議員の要請で◎◎について説明に伺った」、これをすべての接触について公開するようルール化するだけでかなり違うように思います。それが公開されるだけで、裏でのごり押し的な話はなくなるでしょうし、お役所の怒涛の「(取り込みのための)ご説明作戦」にも自制が働くでしょう。それくらいのことで政官の強固な繋がりというのはかなりの変化を迫られるという確信があります。


 私の基本的な発想は「平場で議論しよう、平場に出そう、判断はそれを見た人がやる」ということです。今の政治では、上記の「与党事前審査制」のような見えない部分が多くて、国民の皆様から見ると隔靴掻痒なところがあるんですね。そういう裏での利益調整ではなくて、どんどん表舞台に出していくことで、国会も、行政も変わっていく、そんな思いを持っています。