以前、かなり激しく書いたことがあるテーマ ですが「豚肉の差額関税」についてです。また、この制度を利用して脱税が起こりました。今回は三菱商事という大手商社が脱税をしていました。本当に深刻な話です。大体、この手の脱税は10億円単位で行われており、今回の脱税額は45億円近いです。大体、年2~3回の脱税が摘発されています。


 この制度は「どんなに安く輸入しても一定の価格までは必ず関税で持っていかれる」ということです。分かりやすく説明します。数字は分かりやすくするために実際の数字とは違うものを使っています。


● 輸入業者Aは豚肉を1キロ100円で輸入した。基準価格である1キロ1000円との差額である1キロ900円分を関税で払うことになる。
● 輸入業者Bは豚肉を1キロ900円で輸入した。基準価格である1キロ1000円との差額である1キロ100円分を関税で払うことになる。
● 輸入業者Cは豚肉を1キロ100円で輸入した。基準価格である1キロ1000円との差額である1キロ900円分を関税で払うのはバカバカしいので、申告上は1キロ800円で輸入したことにして関税は1キロ200円しか払わずに残りの部分(1キロ700円分)をポケットに入れる。


 誰が一番賢いかというと勿論輸入業者Cです。そして、どれが犯罪かというとこれも輸入業者Cです。摘発を受けているのも主として輸入業者Cのような行為をやったからです。大規模に輸入をやっていると、ポケットに入る額が数十億にもなるわけですね。


 この差額関税制度は何が問題かというと、価格競争を無にしてしまう効果があることです。普通の関税なら高い価格で輸入すれば関税もその分上がるのですが、この差額関税制度では安く輸入しても高く輸入しても同じ基準価格のところで均されてしまうわけですから、誰も安く輸入しようなどとは思わないのです。つまりは1000円というパイがあって、そのパイをどう分け合うかということになるわけです。放っておけば、関税というかたちでパイの大半を政府に持っていかれるので、そのパイをできるだけ多く確保しようとすると輸入業者Cになるのです。


 合法・違法という話を無視すれば、最も合理的な動きをしているのは業者Cです。制度を最大限に利用して一番儲けているわけですから。最も合理的に動けば脱税で逮捕されるような制度設計は根本が間違っていると私は思います。これだけ豚肉の差額関税制度で脱税の摘発が続く中、そこを根本的に是正する制度改正に全く手をつける気配のない財務省と農林水産省の姿勢は「未必の故意」に近いと思っています。


 日本の豚肉、私は好きです。今、飼育環境に関する規制がどんどん厳しくなっている中、やっぱり豚肉飼育農家の方には頑張ってほしいと思います。そのためには(今一つ味わいに欠ける)外国産豚肉から守るための関税はしっかりと維持すべきでしょう。ただ、そのためのツールは脱税を促し、その温床になる差額関税制度ではあり得ないと思います。