最近、環境問題に焦点が当たり始めています。安倍総理が6月のハイリゲンダムサミットでなかなか大胆な提案をしたのがきっかけの一つになっていることでしょう。少しずつではありますが、環境問題、特に温室ガス削減に注目が当たっていることはとても良いことだと思います。温室ガス(主に二酸化炭素)が増えることで地球の温暖化が進む結果は私達が日々の生活で少しずつ、洪水の増加、猛暑(そして恐らくは厳冬)などで経験していることです。


 別にそれに水を差すわけではないのですが、少し日本の提案とそれを受けて発出されたハイリゲンダムサミットの首脳宣言を見てみます。


● 安倍総理の提案:世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減する

● ハイリゲンダムサミット首脳宣言(パラ49):本日我々が合意したすべての主要排出国を巻き込むプロセスにおいて、排出削減の地球規模での目標を定めるにあたり、我々は2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む、EU、カナダ及び日本による決定を真剣に検討する。我々は、これらの目標の達成にコミットし、主要新興経済国に対して、この試みに参加するよう求める。


 パッと読むと「おー、日本は温室ガスを半減させるのか。偉いなあ。」と思うかもしれません。これはちょっと的外れです。安倍総理提案も首脳宣言も言っているのは「世界全体」で50%減です。そこの中の配分で誰がどれだけ汗をかいて全体で50%かは言っていません。首脳宣言のほうでは「すべての主要排出国を巻き込む」ときちんと言っています。実は今、温室ガスを最も出しているのがアメリカ、その次は中国です。中国やインドを始めとする主要排出「途上国」も視野に入れて考えているわけですね。


 これに対して、途上国は「発展の権利」を主張してくるでしょう。「あんた達先進国はこれまで出すだけ出しといて、いざ都合が悪くなったら自分達に止めろってか?あんた達が努力せいや。」と言うのが言い分です。ましてや産油国がここに加わります。産油国は省エネが進んだら石油が売れなくなるというパラノイアのような思いを持っています。途上国+産油国からの反対に何処まで抗しきれるかが課題ですね。


 ただ、いずれにしても50%削減するには、現在のアメリカと中国を足した以上の排出量を削減しなくてはなりません。これは相当な努力が必要になります。ただ、割り振る作業をしないと単に「絵に描いた餅」になってしまうのも事実です。日本の手腕が問われることになるでしょう。うまく途上国を取り込めるか、アメリカを取り込めるか、政治のイニシァティブが問われます。


 あと、安倍総理は「現状から50%」と言っていますが、この「現状」というのがどの基準年をさすのかがポイントです。京都議定書は1990年を基準年にしています。これはなかなか苦しくて、その後の経済成長を加味すると現時点からだと京都議定書でいうところの6%削減のためには15%程度の削減が見込まれているそうです。また、途上国などは1990年が基準年だと、昨今の経済成長の前のことですから相当厳しくなります。この「いつを基準に50%なのか」というのも今後の重要なテーマになるでしょう。


 簡単に纏めると、50%を達成するために誰が汗をかくのかということと、いつの時点から50%かということが実はまだ決まっていないのです。国内のポリティクスを見れば、本来なら経済産業省や産業界はこういうことには「経済成長を阻害する」と反対のはずなのですが、日本のイニシァティブとして打ち出すことにOKを出したのは単に「色々なことが決まってないから。日本がやることが明確になってないから。」ということに尽きます。


 これからが修羅場になりますね。洞爺湖サミットでどういう結論を導き出すのか、日本外交の真価が問われるでしょう。