【以下はかなり前に書きだめしていたものです。現在の情勢とそぐわないところがありますが、種々の事情から書きだめをそのまま吐き出していくことにします】


 私が自殺というテーマを考える時に一番最初に思うのが「連帯保証人」の制度です。この制度を原因に自殺という選択をする人は多いというのは、あまり表立った統計には出てきませんが厳然たる事実であろうと思います。判子を押したがために、債務の弁済責任を全部背負ってしまったという方に出会うことはそんなに珍しいことではありません。逆にこんな歪な制度を他の国で見たことがありません(特に第三者による根保証)。保証債務については民法上の規定がありますが、問題の多い根保証(継続的な取引から生まれるすべての債務を保証する制度)については2004年の民法改正までは何の規定もなかったわけです。


 企業がお金を借りる際に経営者が連帯保証人になるというのも、よくよく考えてみれば株式会社や有限会社の有限責任という制度を半ば回避するようなもので非常に違和感があります。まあ、日本では特に中小企業では所有と経営の分離が必ずしもなされておらず、何処までが個人資産で何処までが法人資産かということが分かりにくいということが背景なのでしょうが、それに対する処方箋は経営者による連帯保証ということでいいだろうか?と感じます。


 ましてや第三者連帯保証ということになると、どうしても不合理なものを感じます。企業が融資を受ける際に、銀行が第三者保証まで求めないとダメだというのは制度がおかしいと思いませんか。そもそも第三者というのは、融資を受ける企業についての情報をしっかりと有していない可能性が高いのです。そういう人の財産、そして人生までをかたにとらないと金を貸せないというのは、銀行としてリスク判断やリスク・マネージメントができないことを宣言しているのに近いような気がします。「日本社会では判子を押すという行為は非常に責任ある行為であることは一般的に受け入れられていて、そこまでしたんだから責任を負うのは当然。」というのは理屈としてはパーフェクトですが、それはすべての関係者が情報を平等に有していて、正しく判断できるだけの素地があることが前提です。そもそも論ですが、第三者保証については保証人になることで生じるすべてのリスクを知っていたら多分保証契約に判子など押さない人が大半でしょう。きちんと情報が提供されれば(連帯保証人になるという)行動を取らないということは、そこには自由な意思の発露のベースが存在していないということです。そういう意味では制度設計がおかしいと思います。これはある専門家から聞いたのですが、企業の経営者だと情報をきちんと有しているから保証契約の結果、不幸にも破産せざるを得ない時でも事前に資産を移したり、形式的に離婚したりして最悪の事態を免れるために画策できるが、第三者だとそういうことでもないので突然準備もないままドカッと膨大な債務だけが持ち込まれて本当に最悪だということです。


 最近の動きでは2004年に民法改正がされていて、包括根保証というのは禁じられることになりました。これは何かと言うと、債務の上限額が決まっていなかったり、元本の確定期日が決まってなかったりする保証契約についてエンドレスに責任を負わせることはできないようにしたということです。少なくとも保証契約で事実上無制限に責任を負わせるようなことはなくなったということで前進ではあります。そもそも、継続的な取引から生まれるすべての債務をエンドレスに保証させるような包括根保証制度が21世紀に残っていたことのほうが驚きではありますが。


 金融機関は「高いリスクを持つ企業には、経営者か第三者かが根保証契約をしてくれないと貸せない。根保証契約を否定されるとマーケットにお金が流れなくなる。」みたいなことを言うでしょう。しかし、それって金融機関の存在意義を否定するかのような発言です。連帯保証人を取りながら金を貸すというだけなら素人の私でもできます。倒産した際にケツの穴まで毟っていいのであれば信用審査や融資後の経営チェックはしてもしなくてもいいのですね。金融機関というのはそういうものではないと思います。高い禄を食んでいるわけですから、社会的な役割をきちんと果たしてほしいと思います。人質を取らないと貸さないということはなくて、公的な保証機関を充実するとか、きちんとリスク判断をしてリスクに応じたプレミアムを利子に上積みするとか、そういうことをやりながらできるだけ連帯保証に伴う社会的な不幸を減らしていかなくてはならないと思います。また、過渡的な措置として、私はきちんと判子を押す前に保証人になる人に情報提供しておかないとその契約は無効だという制度を作ることも有意義だと思います(これは判例の積み上げでやれるのではないかと)。欧州にも連帯保証人のような制度はあるのですが、こういった情報提供の義務が厳格なので日本ほどの深刻さはないようです。


 連帯保証制度を擁護したい人は金融機関を中心にたくさんいるでしょう。そういう人達は多くの正当化の理屈を持っていると思います。利点を見つけようとすれば見つかるでしょう。しかし、この制度が如何に多くの人を不幸にしてきたか、多くの人を自殺というところまで追い込んだのか、そういう面に目を向けたら、機能しうる新たな制度を考える方が建設的です。ケツの穴まで毟れるような人質がいないと金を貸さない国日本なんてのはちょっと恥ずかしいですよね。