最近、北極をめぐって熱い戦いが続いていますね。


 ロシアが北極点の真下の海底にロシアの国旗を立てて、暗黙のメッセージとして「ここはうちのものですよ。」とメッセージを送ったら、カナダのハーパー首相も3日間北極圏を訪問して「北極海でのカナダ軍のプレゼンスを高める」みたいなことを言い、デンマーク(グリーンランドを領有)も北極海の探査を行っていました。


 多分、その背景には2つの理由があります。1つ目は資源です。北極海の海底に資源があることは特段最近知られた話ではないのですが、これまでは採掘費用が高いためあまり手がつきませんでした。近年原油価格が上がってきたため北極海での採掘が採算ベースに乗ってきているのだと思います。原油価格が上がると、条件不利地域でも採掘が採算に合うので石油資源開発が進むという現象があるように思います。ノルウェーというのは産油国なのですが、採掘しているのは北海の一番厳しい地域ですので、たしか1バーレルあたり15ドル程度(ちょっと違うかも)かかっていた記憶があります。これだと原油価格が15ドルを切ると掘れば掘るほど赤字です。今から8年位前、今では想像できませんが1バーレル9ドルくらいまで下がったことがありました。当時、ノルウェーはピーピー言っていました。ちなみにサウジアラビアでは1バーレルあたり2ドルくらいで掘っていたような気がします。


 ということで、今のように1バーレル60ドル時代では少々条件が悪くても採掘していけると踏んでいるのでしょう。そこには、当面(又は恒久的に)原油価格は高止まりするという見通しもあるのだと思います。


 あと、これはあまり知られていませんが、2点目の理由として、大陸棚の境界画定の話が動いているということがあります。国連海洋法条約には大陸棚の定義があるのですが、簡単に言うと沿岸から200カイリまでは大陸棚への権利を認めましょう、それを越えても大陸棚が延伸しているといった特殊事情があれば最大限350カイリまで権利を認めましょう、ということです。この200カイリを越える部分については、国連海洋法条約を批准した後10年以内に、その部分が本当に同条約に照らして認め得る大陸棚であることを証明するデータを国連に出しなさい、国連でそれを審査します、まあ、雑ではありますがこんな感じです。実は日本も2009年までに国連に書類を提出することになっていて、例えば南大東島とか小笠原諸島とか南鳥島といったところから(勿論、本州などからも)どれくらい大陸棚を(200カイリを越えて)伸ばせる可能性があるかの調査をやっています。その中には、そもそも沖ノ鳥島に大陸棚が認められるのかどうかという問題もあるわけです。


 最後の点は、以前も書きましたが、国連海洋法条約で大陸棚や排他的経済水域が認められるのは「島」に対してだけであって、「岩」には認められないので、仮に「沖ノ鳥島はあれは『岩』だろう」ということになると、日本は大きな漁業権や資源開発の権利を失うことになります。そして、そこには中国の船が大手を振って調査や漁にやってきます(仮に沖ノ鳥島が「岩」だと認定される場合は完全に合法)。そして、ハワイから沖縄・台湾への米軍艦船の航路を徹底的にチェックするでしょう。これは国防上、大きな問題ですよね。今はひっそりと大陸棚延伸への調査が行われていますけど、単なる資源、漁業といった話を超えて国家的プロジェクトとしてやらなきゃいかん話です。


 ちょっと話が飛びましたが、国連海洋法条約での大陸棚延伸の話があるので、北極海に面した地域に領土を持つ国は結構躍起になって、来るべき国連での陣地(大陸棚)取り合戦に備えているわけです。そういう目で見ると、ロシアが何故北極点の真下の海底にロシア国旗を立てたのかが見えてくると思います。あれは北極点の場所にブイでロシア国旗を立てるということではダメなのです。大陸棚としての海底に「ここはオレのもんだ」という意思表示をしたわけです。ロシアはシベリアから北極海にロモノソフ海嶺という非常に広い海底が延伸していて北極点まで到達していますが、ロシアは「これは全部ロシアの大陸棚だ」と主張するでしょう。これに対して、スバールバル諸島を有するノルウェー、グリーンランドを有するデンマーク、あと北極海に面する大きな領土を持つカナダなどが「そうはさせじ」と頑張っています。そういえば、アラスカを持つアメリカはこの件ではあまりあれこれと主張していません。アメリカは国連海洋法条約を批准していないので、そもそも「あんた達は頑張っているけど、そんなのに自分は拘束されないからね」と高みの見物なのでしょうかね、よく分かりません。


 南極大陸については、南極条約というのがあって「いずれの国も領有権を主張しない」ということで合意ができています(なので、南極大陸に行く時はパスポートが要りません)。私は北極をめぐって色々な国が領有権を主張するというのはあまり美しい姿ではないし、人類の貴重な自然資源である北極はそういう領有権争いの場にしない方がいいように思うんですね。もっとはっきり言うと、仮にロシアが北極点の海底への権利を得たりすることになると、色々な意味で良くないことが起きるような気がしてなりません。日本はこの件では基本的にあまり利益を有していないので(昔、北極に近いところで石油採掘ををしようとして石油公団は痛い目に遭ってますけど)、日本がイニシァティブをとって南極条約に類似した「北極条約」みたいなものを作って、「ある一定の緯度以上の場所では、現在国際条約等で認められ、確定しているもの以上の権利は主張しない」みたいなことにしてみてはどうかなと思ったりします。具体的には「もう北極海では大陸棚の権利は主張するな」ということです。そんなに簡単ではないことですけど、こういうのはある程度の知恵と度量があればできるような気もします。


 まあ、あまり深く考えることなく雑なことを書きました。北極について最後にもう一点だけ。グリーンランド北西部にシューレ(Thule)という地があります。米軍がデンマークから借りて空軍基地 を持っています。ウェブで検索してみると結構大きな部隊がいるように見えます。昔から「こんなところで米軍は何をやっているのだろうか?」と疑問に思っていました。冷戦華やかなりし頃は「ソ連の脅威への対策」という名目も立ったでしょう。今もそういう理由なのかもしれません。ただ、何となくそれだけじゃないような気もします。昔、ある友人と「こういうところでなきゃできないこと・・・、B関連の研究か?」というジョークにならない話題で盛り上がったのを思い出します(なお、これは何の根拠もない邪推であることを厳に断っておきます。多分外れています。なので意味不明な方はあまり追及しないでください。)。