日本の海洋政策が動いています。先の国会で海洋基本法 が通り、海洋政策担当相の設置も決まり、国土交通相が兼任することになりました。なんと共産党が賛成したということで画期的な法案だろうと思います。


 海洋政策というと実は色々な話が関わっています。領土、漁業、輸送路、海底資源、国防、環境・・・という分野があり、まあお役所だけでも防衛、外務、経済産業、国土交通、農林水産、環境・・・と、これぞタテ割りになりそうです。これを海洋政策担当相が統括して、総合的な海洋基本計画の策定を行い、具体的な施策を講じていくそうです。ただ、ここで注目しなくてはならないのは、今回設置されたのは「海洋担当相」ではなく「海洋『政策』担当相」ということです。これは意味があるのです。海洋をそのまま担当する大臣を設置したのではなく、海洋に関する政策を担当する大臣を設置したのですね。「政策面ではお付き合いするけど、現場での様々な活動には口を出さないでね」というタテ割り意識の結果なんだろうと思います。したがって、マスコミは平気で「海洋担当相」とか書きますが、それはちょっと見方が浅いのです。


 この法律のきっかけとなったのは、日本の近海で中国がかなり激しく活動していることがきっかけにあります。日中中間線近くでの資源開発、東シナ海での海洋探査、沖ノ鳥島周辺での海洋探査、尖閣諸島・・・、まあ色々とあります。中国が行っていることは、潜水艦による領海侵犯に相当するようなものや尖閣諸島への主権主張など全然筋が通らないものも多いです。しかしながら、資源開発や海洋探査について言うと、それなりに理屈が通っている面もあって、時には日本の主張のほうが筋が悪いこともあります(すべて中国がムチャクチャやっているわけではないということです。)。あと、海といえば中国ばかりが注目されていますが、日本海での韓国漁船の振る舞いたるや、それはそれはヒドいですね。平気で日本近海で漁をしては高速で逃げる、日本漁船の網を切るといった感じで、場合によっては中国より性質が悪いような気がします。日韓漁業協定ではかなり広い地域が共同開発の対象になっているのですが、実は共同開発どころか韓国漁船の独壇場です。協定の交渉の際、韓国から「竹島周辺も共同開発の海域に入れることに合意する代わり、共同開発の海域を広めに取ってくれ」と押し込まれ、海域を広くしたのがあだになっているのかもしれません。


 さて、この海洋基本法と一緒に「海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律 」という法律が成立しました。これも日本近海の大陸棚での資源開発に関連するものです。資源開発の際にはボーリングをするための色々な施設を海に設置する必要があります。国連海洋法条約に沿ったかたちで、この海洋構築物を守るための法律がようやくできたのです。これには幾つか問題があるのですが、思ったことをタラタラと書いておきます。少し難解になっていますが、私の筆力のなさに起因しています。ご容赦ください。


 以前も書きましたが 、排他的経済水域や大陸棚は実はまだ画定していない部分が多いのです。今後2009年までに国連の場で画定させていくことになっているのですが、そんなに簡単ではないでしょう。厄介なのは沖ノ鳥島の扱いです。あれは今、「島」として扱っていて、それに伴いかなり広い排他的経済水域や大陸棚を確保しようとしています(大体、日本の国土と同じくらいの面積)。しかし、あれは水面から70センチくらいだけが出ているだけの島です。国連海洋法条約上は島とは別に「岩」という概念があって、「岩」だということになると領土だとは認めてくれますが(したがって領海はある)、排他的経済水域や大陸棚は認められません。中国は「沖ノ鳥島は日本の領土だということは疑ってないし、そこに領海があることも当然。しかし、あれは『岩』だろう。排他的経済水域や大陸棚までは認められないよ。」と主張して、この島の周辺での海洋探査をやっています。さて、中国だけがこれを主張するならいいのですが、この沖ノ鳥島から大陸棚を確定させようとすると、北マリアナ諸島から東アジアのルート上なのでアメリカの権益ともぶつかります。アメリカが今、沖ノ鳥島の位置づけについてどう考えているのか、法律的に行けばかなり日本の主張は厳しいように思いますが、アメリカが「ここの排他的経済水域や大陸棚を日本に持たせておくことが中国の膨張を防ぐ意味でも有効」と思って加勢に回ってくるかどうかです。


 まあ、それだけでなく、そもそも今回の法律では既存の法律での排他的経済水域や大陸棚の定義をそのまま使っています。私はこの定義はちょっと中国に配慮しすぎじゃないかなということを以前書きましたが 、それはさておき、現時点で中国との間で大陸棚の権利は日中の中間線までは主張できることになっています。さて、今、既に中国が日中中間線ギリギリのところで春暁ガス田とかを開発しています。一応、法律上は日本が日中中間線ギリギリの日本側で同様にガス田開発をした時にどうなるんだろうということを考えました。ボーリングのための設備を大々的に設置して、その周囲に安全水域を設定する、そこに勝手に入るのは禁止だ、入ったら1年以下の懲役か罰金だということが書いてあります。しかし、中国がチャチャを入れてくる時には恐らく軍艦が出てくるはずなんですね。そのときにどんなに法律で禁止だ、罰金だと言ってもちょっと次元が違うはずです。中国人民解放軍とギリギリのところで大陸棚開発の操業をすることが求められる人に対して、悠長に「入ってきたら1年以下の懲役か罰金だから安心しろ」ではちょっとタマが少なすぎですね。


 こういうところを中国はよく見ていますから、「まだ、本気じゃないな」と踏んでいるでしょう。勿論、今回の法律によって「日本も大陸棚を開発する権益を保護していくんだぞ。」という意気込みは見せることができましたが、中国側が「うちが日中中間線ギリギリのところで軍艦を回遊させて牽制した時にどうするつもりなの?そこまではやる気じゃないんでしょ。」とたかを括っているうちは、まだ外交上のツールとしては不十分ではないかと思います。ただ、海上警備行動とか治安出動といったカテゴリーを持ち出すと、もう「武力衝突も辞さない」というメッセージになるので、日本としても今は寸止めというところなんでしょう。


 さて、海洋基本法、そして海洋政策大臣が設けられ、日本の海洋政策はこれからです。どんどん海についての議論が深まることを期待してやみません。