このテーマは昔から強い関心を持っています。ちなみに「医療と外交」と言っても、外交において医療をどう絡めるかということです。色々なパターンがあります。軟禁していた政治犯を「治療目的」で外国に追い払う(相手国との間で調整した上で)とかになると中国がお得意です。亡命者を受け入れる際(追い出す際)に「治療のための人道目的」といった理由が使われることもあります。


 私はもっと日本も外交に医療を絡めていっていいと思います。途上国の有力者や将来有望な人物で病気疾患を抱えている人を、医療目的で日本に招聘して治療させ、日本との繋がりを作っていくということです。必ずしも現在権力の座にある人間でなくてもいいと思うのです。将来そういう立場になりそうな人、今は反体制派だが見込みのありそうな人を含めて、「この人は良いから早めに関係を構築しておきたい」と思える人に目を付けるわけです。その選定プロセスにおいては外交官としての知見、構想力が問われます。場合によっては政争に敗れた亡命者を治療目的と銘打って迎え入れておくと、その国との関係でグリップが効くようになるということも考えられるでしょう(例えば、生活を保障しつつ政治活動をさせないように押さえ込めば感謝されるでしょう。)。


 この手の話が得意なのは、上記でも言及した中国です。一番分かりやすいのはカンボジアのシアヌーク元国王です。まあ、複雑な歴史的経緯があるので簡単に纏めることはできませんが、結果として国王在任時から治療と銘打っては北京(や平壌)に行ってはカラオケ三昧でした。迎え入れる側からすればカルテは握っている、恩は売れるということです。おそらく中国政府がかなりの費用負担をしていたのではないかと思います。その他にも有名なものとしては、ヨルダンのフセイン前国王はアメリカのMayo Clinicで治療していました。ロシアやフランスにも治療目的での亡命者がいます。


 日本にも過去に例が無いわけではありません。有名なのはカンボジアのフンセン首相。同首相の左目は義眼ですが、かつてはソ連製の金属製義眼を付けていたそうです。それを日本に呼んで順天堂大学病院で軽いものに代えてあげつつ、その治療の合間にカンボジア和平の交渉をやった話は既に公刊物にもなっています(http://www.amazon.co.jp/%E5%92%8C%E5%B9%B3%E5%B7%A5%E4%BD%9C%E2%80%95%E5%AF%BE%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%B8%E3%82%A2%E5%A4%96%E4%BA%A4%E3%81%AE%E8%A8%BC%E8%A8%80-%E6%B2%B3%E9%87%8E-%E9%9B%85%E6%B2%BB/dp/4000026380/ref=sr_1_1/249-1097298-6471557?ie=UTF8&s=books&qid=1173602152&sr=8-1 )。


 この治療目的での要人受入れ、一応人道目的という建前がつくのでかなり広範な使い方ができます。私はもっと日本に政治亡命者を受け入れていいのではないかと思いますが、相手国との関係でそうもいかないこともあります。そういう時に「治療」という名目が付けばなかなか文句も付けにくいでしょう。


 対象となる人は政治的有力者だったり、反体制派だったり、色々なバラエティが考えられます。誰でもいいというわけではありません。慎重に判断する必要があります。もしかしたら、その後モノにならない人もいるかもしれません。ただ、結果としてモノにならない場合があってもそれは仕方ないわけで、必ずモノになる人だけを選定しようとすると上手くいきません。また、期間についても短期間で良い場合もあれば、結果として一生面倒を見なくてはならなくなるケースも出てくるでしょう。こういうところは日本外交の懐の広さが問われます。そして、こういうところに、かつて悪名高かった報償費(機密費)を投じればいいわけです。


 日本には秘密を守れて、医療レベルの高い病院がたくさんあります。そういう病院なんかと上手く連携しつつ、医療目的で外国の要人を上手く取り込む、これまでの日本外交にはあまりなかった発想ですが(こっそりと)検討してもいいのではないかと感じます。まあ、表に出てきてはいけない話ですので既に行われているのかもしれませんが。