12月に北朝鮮の核問題に関する六者協議が行われました。既に済んだ出来事をあれこれ批判的に論評するのはフェアではないと思いますが、思ったことを書き留めておきます。


 そもそも、北朝鮮は何故核開発をするか。他国からの攻撃に対する抑止力という見方をする人が多いですが、物事はもう少し複雑だと思います。北朝鮮が武力の行使の相手として恐れているのはアメリカでしょう。しかし、アメリカであっても何もしない相手に武力の行使をすることはありません(当たり前です)。では北朝鮮は何故抑止力を持とうとするのかというと、究極のところ「自分に自信がない」ことがあるのだろうと思います。独裁政権というのは一見鉄壁に見えますが中は常にグラグラしています。そして、ホンネでは自分達もこれでいいと思っているわけではないのです。独裁をやらずに(自己の権益を守りつつ)国が統治できるなら、これに越したことはありません。それができないのです。その自信のなさがパラノイア的に出てきた結果が核開発なのです。「周りの国は自分をけしからんヤツだと思っているのではないか」という強迫感からく不安があるわけです。もっと言うと、国内にも不穏分子を潜在的に抱えている中、国内引き締め、体制維持の要素としても核開発による国威高揚というのは有効です。


 ただ、北朝鮮の技術では長距離ミサイルで核兵器をアメリカ本土まで到達させることはできません。では、北朝鮮は何らかの抑止力を働かせる対象として在韓米軍を念頭に置いているでしょうか。それは置いていないでしょう(そもそも韓国領内に核攻撃をすることは到底考えられませんし)。北朝鮮指導層が強く持っている感情として「恐怖」というのがあります。北朝鮮はアメリカにボコボコにやられる可能性をとても恐れています。自分達はアメリカに問題視されるような政権だということはよく分かっているのです。しかも、問題視されないような政権に変貌することは現政権の崩壊を意味します。そんな中、アメリカに対しては恐怖感を持っているわけです。いつも出てくる威勢の良いアメリカ非難は恐怖感の裏返しに過ぎません。北朝鮮はアメリカへの攻撃を念頭に置いた核抑止力を考えたりはしてないでしょう。


 そこで日本が出てきます。別に日本は北朝鮮に攻め入る意図を持っているわけではありません。ただ、北朝鮮のパラノイアは日本に対して向けられています。日本は北朝鮮を嫌っていて、潰そうとしているのではないかという思いはあるでしょう。それよりも反日を掲げておくことが政権のレゾンデートルの一部になっているという面は強いと思います。独裁政権の常として敵を演出することで政権維持を図るというのがあります。本当は「最大の敵はアメリカだ」とプレゼンしたいのですが、アメリカは怖いので、一番狙いやすい日本を対象にしていると言うと言いすぎでしょうか。その結果、北朝鮮の核開発にまず具体的な危機感を覚えるのは日本なのです。このポイントを逃してはいけません。ロシアや中国に北朝鮮が核をぶっ放すことは絶対にありません。では、韓国はどうかというと同胞にぶっ放すことはしないでしょう。では、アメリカはどうか。上記のとおり、遠すぎて現実の危機ではなく、また北朝鮮がアメリカにぶっ放すことは到底考えられません。


 結局、真の意味で北朝鮮の核開発が具体的な危機として受け止められる第一の国は日本なのです。アメリカの同盟国である日本を核で煽ることによって、アメリカにも圧力を掛けたいということなのです。日本が北朝鮮の核で煽られれば煽られるほど、北朝鮮は間接的にアメリカに「おまえの大事な同盟国が危機に晒されるんだぞ(、だからオレをいじめるな)。」というメッセージを発していると見ていいと思います。この「最終的な相手はアメリカなんだけど、直裁的に脅威を受けるのは日本」という構図、あまり誰も言いませんが、この非対称姓が六者協議の中の重要なポイントなのです。


 ただ、ここでアメリカは北朝鮮をけしからん国として武力の行使をも厭うことなく徹底的に潰す意図を有しているかと言うと、北朝鮮をけしからんと思っていつつも、一つだけ確実なのは「武力の行使に出ることはない」という点が指摘されます。アフガンとイラクで精一杯の中、北朝鮮で戦火を開くことは到底考えられません。結局、アメリカに行使できる影響力は非軍事的なものに留まるということです。その点を北朝鮮はよく理解しています。アメリカから攻撃される可能性をとてつもなく恐れていつつも、「それはまずない」と踏んでいるのです(ただ、最後の最後で攻撃される可能性がゼロではないことのみを恐れている。)。


 勿論、アメリカは核の不拡散の観点から危機感を持っており、だからこそ最前線で交渉に臨んでいるのですが、それとて直裁的には自国の危機に至ることはありません。アメリカは北朝鮮による核開発阻止に努めていますが、最終的には他国への不拡散が担保されることが重要なのです。自国への具体的な脅威と捉えている日本との間には少し乖離があります。その乖離が日米の離間に繋がるほど大きいものだとは思いませんが。


 では、日本が単独で「武力の行使」に当たる行為に出るかというと、恐らく自衛権の行使であってもやらないのではないかと思います(自衛隊の方に叱られそうですが)。北朝鮮がミサイルに燃料を注入し始めた際に、それを武力の行使の着手と見て反撃行為に出ることは個別的自衛権の範囲内であるという議論がありますが、仮に具体的にそうなった際も、日本は米国の集団的自衛権の発動と同時に動き始めるのではないかと感じます。


 また、同様に中国やロシアは北朝鮮を締め上げ過ぎることを臨んでいません。韓国はノ・ムヒョン政権下では北朝鮮の代弁者になっています(ただ、私はこの親北朝鮮の流れは不可逆的に韓国社会に根付いたと思います。政権が代わっても基本的にこの流れは抗しがたいでしょう。)。北朝鮮に対する締め上げは底が抜けていると言っていいでしょう。どんなに締め上げても、中国、ロシア、韓国から物資は流れていきます。国際社会による締め上げは効いています。ただ、北朝鮮が音をあげるところまで締め上げることができるかというと無理です。


 なお、北朝鮮は独裁で最貧国ですから、少々金融制裁を食らっても耐えられるだけの耐性があります。貧しい国では、現状よりも更なる貧困に対しても堪えきれる力があります。それが独裁国家だったりすると尚更です(そういう中にも反発のマグマは溜まるが、爆発するところまで行くには相当の時と事態の悪化が必要となる。)。


 さて、これだけの要素を前提に考察をめぐらせて見ると、六者協議の構図がよりよく見えてきます。北朝鮮はとどのところ「狡猾なだだっこ」なのです。駄々をこねてアメリカに振り向いてほしい。その駄々のレベルが最近上がり始めて遂に核実験に至った。ただ、駄々をどんなにこねてもアメリカからガツンとやられること(武力行使)はない。せいぜいコツンとやられること(金融制裁)くらい。コツンとやられれても、北朝鮮は頭が固いから軽くこらえられる。だから、駄々をこねつづけて近隣の住人を恫喝する。しかも、最後の最後にはロシア、中国、韓国というお友達が守ってくれる。まあ、こんな感じです。こういう時にこの駄々っ子を黙らせるにはどうしたらいいのでしょうか。


 まず、確実なのは金融制裁くらいで北朝鮮が折れることはありません。折角手に入れた核、これを手放すことは相当なことがない限りはありえません。金融制裁は痛いですが、北朝鮮のプライオリティは核保持です。「金融制裁で苦しんで折れてくる」なんてのは単なる楽観的な希望的観測に過ぎません。北朝鮮の国としてのプライオリティ付けがどうなっているかはきちんと見極めたほうがいいでしょう。であれば、日米にはあまり北朝鮮に対するツールがないのです。


 しかも、六者協議の枠組みが維持されている状態は北朝鮮には心地がいいのです。「協議中」という体面を維持しつつ、しかも査察が入ることもなく、核開発を進めることができる、こんなに有利な条件はありません。しかも、六者協議に戻ってくることに対する対価も得ることができる(核放棄に対する対価ではない。いつの間にか六者協議をめぐるステークは上がってしまった。)。アメリカが攻撃してくることは(とりあえず)ない。時間が無為に過ぎていくことは完全に北朝鮮の味方をしています。予定調和的な「北朝鮮は金融制裁で苦しんでいる。国際社会に助けを求めるはず。だから降りてくる。」という発想からスタートして、物事が良い方向に回るという楽観論は十分戒めるべきです。


 私は六者協議はこのままでは成果を出せないと思います。最も六者協議を維持したいと思っているのは、議長国としてのメンツを重んじる中国でしょう。その後に、時間稼ぎに使いたい北朝鮮、枠組みの中に入っていることを重視する日本という国が続きます。つまり、核廃棄という真の目的からこの枠組みを維持したいと思っている国はあまりないのではないかと思えたりします。少し枠組みを組み替えたほうがいいと思います。具体的には、仮に六者協議の枠組み自体を維持するとしても、もう少し二国間協議に重点を置き、どう考えても有益とは思えない全体会合は基本的にやらないことで十分ではないかと思います。つまり、二国間協議の集合体としての六者協議というのがいいと思います。最後は二国間でバシッと纏めていかないとダメなんですよね、この手のものは。最後に何か具体的な成果が纏まったら(纏まらないと思いますが)、その時にハイレベル(外相)で六者会合全体会合をやればいい、それだけの話です。


 グダグダと纏まりなく書きました。時間がないので推敲していませんが、悪文、支離滅裂な点はご容赦下さい。