国立市平和都市条例の審議を見に行ってきました。色々な意味で熱い雰囲気を感じました。私は普通にジャケット(ノータイ)で言ったのですが、周囲の方から「防衛庁の方ですか?」と聞かれてしまいました。肩幅が広いのと短髪なのがそう思わせたのかもしれません。


私はあの条例案には色々と勘違いや間違いが多いと思ったのですが、議論はジュネーブ諸条約第一追加議定書第59条の「無防備地区」のところに集中しました。そもそも、こんな戦時においても例外中の例外的な状況を想定した条項に何故あんなに熱心になるのに不自然なものを感じました。「平和を考えるならもっとできることはあると思うよ」とボンヤリ考えていました。


まず、推進派の方々は「地方公共団体でも無防備地区を宣言できる。その証拠に赤十字国際委員会が出している解説集にもそう書いてある。国が専権的に行うといっているのは間違いだから、国立市としては国と徹底的に戦っていく。」と主張していました。これだけを素直に聞くと「そうかそうか、見識高いICRCがそんなことを言っているのか。それなら正しいかもな。」と思うでしょう。私も「ふーん」と思いながら、ICRCの解釈集の該当部分を読んでみました。


'Who must send the declaration?'

2283 In principle the declaration must be sent by the authority capable of ensuring compliance with the terms of the declaration. In general this will be the government itself, but it may happen that in difficult circumstances the declaration could come from a local military commander, or even from a local civil authority such as a mayor, burgomaster or prefect. Of course, if the declaration comes from a local civil authority, it must be made in full agreement with the military authorities who alone have the means of ensuring that the terms of the declaration are complied with.


まあ、簡単に要約すると(あまり上手くない訳ですが)、

● 原則として、宣言の内容との整合性を保証できる当局が宣言を出す。

● 通常、そのような当局は政府。ただ、困難な状況下では、地域の司令官、又は市長若しくは知事からであっても宣言を出すことはあり得る。

● そのような場合であっても、宣言は、その内容との整合性を保証できる手段を唯一有する軍の当局との合意の下なされる。


推進派の方々は、上記で言う二つ目の●までに言及し、最後の●については意図的かどうかは知りませんが誰も言及しませんでした。ここで言っているのは、普通は政府が宣言を出す、例外的に政府が機能しないときは現地の軍当局(この場合、恐らくは自衛隊)とよく相談してやりなさいよ、ということです。国立市だけで自由に無防備地区宣言ができるなどという根拠は、この解説集からでてきませんね。


国立市当局の答弁では「困難な状況とは多義的なので、色々な解釈の余地がある。」とか言いながらはぐらかしていましたが、まあ、文脈から言えばどう考えても「政府が機能しないとき」という例外的な状況でしょう。しかも、「even from a local civil authority such as a mayor, burgomaster or prefect」と例外的な状況であることが強調されています。「例外は限定解釈する」、これは古代ローマ法以来の法の原則です(そして、私の好きな言葉です)。例外の部分をことさら大きく取り上げて「何でもあり」に持ち込もうという姿勢には嫌なものを感じました。


そもそも論に戻りますが、国立市が行いたかったのは「宣言を行うこと」なのか、「宣言を行いうるような環境整備をすること」なのかが不明でした。私は皆が希望することは後者ではないかと思うのです。であれば、無駄な議論はせずに環境整備のための国立市として汗をかく、そして、有事になった時には整備してきた環境を生かせるよう予め政府に働きかけるなど努める、そこまでじゃないのかと。それ以上のことを目指すことがどう考えても不自然です。


まあ、いずれにしても、この条例は否決されました。


今後もこのような動きが全国のどこかで起こるかもしれません。私が推進派になるのなら、目的を明確化した上で、与野党皆で通せるような案を考えますけどね(http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-10014827964.html に書いた案なら大丈夫でしょう。)。折角、7万人の都市(国立市)で集めた4300の署名、無駄にしない方法を考えるのが筋だと思う私は多数に迎合するくだらない男ですかねぇ。