ラファエル・アルシデスと革命の裏切り | MARYSOL のキューバ映画修行

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先日(26日)閉幕したマラガ映画祭に出品されたキューバのドキュメンタリーNADIE(ノーバディ)』(ミゲル・コユーラ監督)について書かれた記事を(部分的に)訳してみました。

 

ラファエル・アルシデスとキューバ革命の裏切り 

                 イスマエル・マリネーロ (マラガ) 20/03/2017  

マラガ映画祭のコンペティションに出品されたキューバのドキュメンタリー『NADIE(ノーバディ)』の主人公は、詩人で小説家のラファエル・アルシデス(81歳)。

語り手のアルシデスは、優れた詩人でありながら、ほとんど知られていない。それは、彼の誠実(正直)さの代償。彼がかつて信じ、今も信じている社会正義の変容を大胆にも批判する者が払うべき代償だ。

彼は衰えた視力で消えかけたインクの文字を追い、未完の小説を完成させようとしている。その一方で、衰えぬ明晰さをもって革命を振り返る。体制にとって不都合と思われるアーティスト、美、資本主義の罠、キューバの歴史とその不確かな未来を。

深い失望から生れた、自分自身との対話や“市民ケーン“ならぬ“市民カストロ”との対話が秀逸だ。

一方コユーラはコラージュを巧みに用い、映像や音や音楽を効果的に挿入することで、作品をありきたりに見せない。

コユーラの発言:「革命当初、アルシデスがどれほど革命がもたらした“美しいできごと”を愛していたか。それを語ることで、後に味わう失望との間にドラマが生まれる。この内面の葛藤を形にしてみたかった。」

革命の原則を信じた詩人(アルシデス)は、党本部がソビエトのチェコ侵攻を正当化し、権力を手放さず、非情な検閲官と化す様を目の当たりにし、裏切られたと感じる。

多くの作家が抑圧され、忘れられ、“ノーバディ”となった。だが、その後政府を批判するのをやめ、適合していく作家もいた。

譲歩しない者に残された選択肢は二つ、“国を出るか、口を閉じるか”。

あれから何十年と経た今、コユーラも身をもって検閲を生きている。

コユーラ:「批判的な映画を作り、フィデル・カストロを名指しで呼べば、報いを受ける。今のところキューバでこの映画を論じた批評家は一人もいない」

公の沈黙(黙殺)と支援不足。それはキューバ国内に限らない。

コユーラ:「『セルヒオの手記』は2010年にサンダンス映画祭でプレミア上映されたが、今年『NADIE(ノーバディ)』は通らなかった。というのも、サンダンスはハバナの映画祭と協力関係にあるラボラトリーをもっており、その協定を危うくするような、政治的に面倒な映画は欲しくないからなんだ」

実際、コユーラの場合のみならず、ハバナ映画祭NYでも同様の理由でキューバ映画『サンタとアンドレス』(カルロス・レチューガ監督)が退けられたばかりだ。

それでもコユーラとアルシデスは屈することなく、表現の方法を探し続けている。完全に独立した立場から。

彼らは革命の裏切者ではない。革命が彼らとキューバ国民を裏切ったのだ。

コユーラ監督:「インディペンデントであるということは、誰にも妥協しないということ。これが自分を律している精神だ。」

「僕は無神論者で、ドラッグはやらないし、消費社会にも興味がない。だから映画のために生きている。映画で生きる(生計を立てる)のではなく。」

それはアルシデスも同じだ。詩のために生きてきて、今も詩のために生きている。詩で生きているのではない。

 

ミゲル・コユーラから送られてきたビデオ

ラファエル・アルシデス、NADIEについて語る

発言の大意

これは1年ほど前に私がミゲルのインタビューに答えたものだ。

ミゲルがそこに色々と細工を施し、私はそれをとても気に入った。

様式は「ドキュメンタリー」だが、私は「映画」と呼びたい。

政治的な映画だ。とても面白く、豊かで、“革命の歴史”でもある。

ミゲルは素晴らしい仕事をした。私はそれに貢献できたことを誇りに思う。

 

私は自分の声を使って、みんなの話をした。

これは私の持論だが、キューバに反体制派は二人しかいない。

フィデルとラウル・カストロだ。

 

私が映画で話したのは私の革命の話ではない。皆の話を語ったのだ。

街で話せば、皆まったく同じことを考えている。口に出すか、出さないかの違いだ。

「ノーバディ」とは「オール」。みんなのストーリーなのだ。

 

ミゲルはたまたま私に声をかけてきた。私にすれば“偶発的な出来事”だった。

私よりも上手に話せる人はたくさんいる。私はフィデルほど話さない。

 

私にとっては何もかもが辛く悲しくて心が痛む。

革命の進展をどれほど望んだことか…