私が『ルシア』を初めて観たのは、1989年のキューバ映画祭。
第二話の展開がよく分からなかったので、先月末のキューバ映画祭では、特に第二話に注目して鑑賞。でもやっぱりよく分からなかった…
それで歴史を紐解いてみることにしました。
以下は、史実を交えて紹介する『ルシア』第二話。
ネタバレしますが、ご了承ください。
『ルシア』第二話と「33年革命」の挫折
舞台は、1932年のシエンフエゴス
当時のキューバは、殺人も憚らない独裁者、ヘラルド・マチャード将軍の弾圧下(1924~1933年)にあり、独裁と反独裁闘争の時代だった。
主人公ルシアと母は、「街中の暴動に巻き込まれないように」という、もっともらしい父の意見で(本当は父は愛人を囲っている)、別荘のある小島に追いやられる。
裕福だけど空虚な暮らしを送る母。そんな母をルシアは疎ましく思っている。
だから、彼女は一人で散歩に出る。
そしてある廃屋に入り込み、そこでいつか目撃した、夜陰に紛れて船で渡ってきた青年たちの一人(負傷していた青年)に出くわす。
彼の名はアルド。マチャード政権打倒を目指す反体制派の活動家だった。
アルドとルシアはすぐに打ち解ける。やがて街に戻った二人は再会し、ルシアは彼の仲間に紹介される。仲間の妻、フローラに励まされ、ルシアは家を出て、アルドと共に生きることを決意。
フローラと共に葉巻工場で働きながら、反マチャード運動に加わる。
1933年
8月12日 独裁者マチャード、遂に国外へ亡命。
カルロス・マヌエル・セスペデス(独立戦争の英雄の息子)が一時大統領に就任するが、その無能ぶりと無政策が非難され、学生幹部団に辞任を要求される。
9月4日 フルヘンシオ・バチスタ軍曹によって反乱がおきる。
バチスタ軍曹と幹部団はコルンビア要塞に駆けつけ、共に<キューバ革命連合>の結成を宣言。
ラモン・グラウ・サンマルティン(大学教授)、アントニオ・ギテラスと共に革命政府を結成する。
だが、アメリカは新政府の承認を拒否。
一方共産党は、キューバのプロレタリアートにソビエト
の結成を呼びかける。
こうして二つの勢力は、連動することなく各々の方針を急速に推し進めていく。
★グラウ=ギテラス政権で発布された革命的政令(一部)
労働時間は1日8時間とする。
サトウキビ刈り入れ労働者の最低賃金を設定
労働組合活動の権利承認
電力料金の45%引き下げ
アメリカ系電力会社への政府介入
非キューバ人による土地取得の制限
農地改革の実施とプラット修正の廃棄
1934年
1月15日 グラウ=ギテラス政府辞職
(バチスタが、アメリカと合意の上で内閣を更迭)
バチスタによる新体制の始まり
前政権が実施した社会的政策の大部分が無効になる。
メンディエタ大佐、臨時大統領に就任。
全国に弾圧の波が襲う。
「ピラニアのようにポストを奪い合うために革命を起こしたんじゃない!」
「仲間の死を無駄にしていいのか!?」
理想を諦めきれないアルドは再び反体制運動に身を投じる。
一方、ルシアのお腹にはアルドとの愛の結晶が宿っていた―
Marysolより
せっかくマチャード政権を倒したのに、あっと言う間に仲間は堕落していくし、
アルドはまた反体制派に戻るし…
故ウンベルト・ソラスの父親世代が味わった「挫折した革命」の背後では
何が起きていたのか? その疑問が少し解けた気がします。
そして、ルシアが妊娠している意味も。
ルシアとアルドの子供は、フィデルによるモンカダ襲撃事件(1953年)のとき
19歳。きっと父の遺志を継いで、革命運動に身を投じたことでしょう.。